2011年 春

那須連峰

湯治と朝日岳東南稜

2011/04/17

朝日岳東南稜のギャップ前後の50mはルートのハイライト


3月11日の東日本大震災から一ヶ月が過ぎ去った。
石巻市立大川小学校の児童たちの身に起こった悲劇に声を詰まらせ、両親を失ったあどけない子供たちを抱きしめたいと思った人も多いことだろう。
私はあれから山へは行っていない。
「山などへ行くべきではない」と自粛しているわけではなく本当に心底、山へ行こうという気になれないのだった。

そんなおり、母が那須の温泉へ行きたいという。80歳をいくつか越えた母は昨年の待降節の頃に脳梗塞で入院した。幸い同居していたので異変にすぐ気がつき2週間の入院で大きな後遺症もなく退院することができた。
その母の目当ては那須板室の幸乃湯
幸乃湯には大規模な「打たせ湯」がある。それに打たれれば体の調子も良くなるというのである。幸乃湯の設備は簡素だが「打たせ湯」と廉価な宿泊料でとても人気が高い。施設はいつも満員で土日に宿泊するためには数ヶ月前に予約しなければならない。5連泊、10連泊する人などもいるので「湯治場」と言った方がよいかもしれない。母が問い合わせたところによると、そんな幸乃湯が土日でも空き部屋があるという。震災の影響で予約がキャンセルされ多くの従業員を自宅待機させざるを得ない状況だという。こんな山あいの温泉地にも震災の影響が色濃く出ているのである。
よし、行こう。幸乃湯へ行こう。そして那須の山へ登ろう。木曜日の夜、出張先の高知のホテルでそのように思った。

4月16日(土)晴れのち雷雨

震災以来、高速道路も空いているようで自宅を朝7時に出ても首都高の渋滞はなかった。都内周辺では散ってしまった桜。東北自動車道を北上するにつれ、まるで季節を遡るように桜の咲いているのを見ることができる。
那須高原へ入ると木々は今まさに芽吹きの時期を迎えようとしていた。黒磯板室ICから那須疎水に沿って青木へ向かう。青木小学校の桜が満開だった。田植えの終わった水田も見られる。いつもの通り、戸田交差点の「スーパー池上」で買い物。甘い苺を買い求めた。
幸乃湯の庭ではツツジが咲いていた。母はさっそく温泉へ。天気予報では午後からの雷雨を報じているので、山の奥へと入るのはやめて周辺をうろうろし、那須ガーデンアウトレットなどへ行ってのんびり過ごす。Adidasのアウトレットショップで通勤用の靴を二足買った。
夕食前に幸乃湯へと戻り一風呂浴びたが、宿泊客が少ないので、女湯の「打たせ湯」は止められているとのことで、母はがっかりしている。マイケル・サンデル教授の白熱教室を観る。今日は震災がテーマで日米中の三カ国による討論。この番組は毎回とても感銘を受けるが、今回に限っては残念ながら期待はずれだった。旅館に泊まるよりも、真っ暗な山奥でキャンプするほうが私には似合っているなと思いながら就寝。

4月17日(日)晴れ

身の引き締まるような冷たく清浄な高原の空気。食事を終え私と妻は山登りへ出かける。目指すは三度目となる朝日岳の東南稜。
峠の茶屋の県営駐車場に車を止めて9時半過ぎに歩き始めた。東南稜自体には雪はないが、下降時に剣が峰で急な雪田のトラバースがある為、ピッケルとアイゼンを携行する。
駐車場から一歩踏み出すとそこは雪原だ。急な雪面を登っていく。途中で明礬沢沿いの林道へ入る。林道は雪に覆われ一部では急斜面になっている。ゆっくりと50分ほど歩いていくと林道の終点に到着。
雪原となった明礬沢源頭部を横断し東南稜の取り付きへ。
余震による岩の崩落もありうることを想定しながら見上げる。もし雪のある山域であれば雪庇やプロックの崩壊も考慮に入れなければならないだろう。
東南稜には雪は全くない。
もろくて崩れやすいザレを注意しながら登っていく。30分ほど登ったところで安定した場所があったので一時間近くの大休止。湯を沸かしてお茶をのみ、ハーネスをセットしてヘルメットをかぶる。
やがて核心部のギャップへ到着。昨年はクライムダウンしたが今回は懸垂下降。ここはしっかりしたラッぺル用のアンカーが欲しいところだ。次に訪れる時にはバッテリーハンマードリルを担ぎあげて、ステンレスアンカーを設置したいくらいだ。
ギャップの底に降り立つ。登りかえしはガバホールドの連続で易しいが岩がもろくランナーは皆無なので慎重に登る。このギャップを挟んで50mほどが東南稜で一番楽しい部分だ。この50mを除くと東南稜は残念ながらガレ場登りが大半である。
楽しい部分が終わるとちょっぴりうんざりするようなガレ場登りが続く。しかしながらこのガレ場を登り切ると朝日岳の山頂はもうすぐそこだ。
気持ちの良い稜線を少し進んで山頂の岩場の下へ到着。妻をビレイしながら気持ちのよいフェイスを登っていくと誰もいない朝日岳の山頂。
会越の山々は真っ白。
十分に展望を楽しんで下降開始。
剣が峰の二つの雪田トラバースの為にアイゼンを用意してきたが、雪が柔らかくなっておりステップもしっかりしていたのでアイゼンを装着しないで横断。朝晩など低温時には雪が氷化しやっかいな斜面になるのかもしれない。
峰の茶屋の陽だまりで湯を沸かし昼食をとり、のんびりと駐車場へと下降して行った。

帰りの高速道路には渋滞はなく、二時間半で帰宅できた。


走行距離:592km、ガソリン消費量:52リットル


カシミール3Dによるルート図は「PC用アルバム」に掲載しています

2011年4月17日日曜日
峠の茶屋県営駐車場 9:36
林道終点 10:23
1700m地点休憩 10:49-11:37
ギャップ 11:50
朝日岳 13:02-10
峰の茶屋 13:52-14:27
峠の茶屋県営駐車場 14:57




周辺の記録
2010 那須 朝日岳 東南稜 11/07 家族と
2010 那須 苦土川 井戸沢 7/25 家族と
2010 初夏 那須 苦土川 井戸沢 6/19 家族と
2010 那須 七千山_水源の森キャンプ 5/15--16 友人と
2009 那須 七千山_水源の森キャンプ&リハビリ 5/2--5 家族と
2007 那須 三斗小屋宿、北温泉11/2--11/4 家族と
2007 初夏 那須 苦土川 井戸沢 5/27 家族と
2007 那須 朝日岳 東南稜3/4 家族と
2006 那須 苦土川 井戸沢 9/30 家族と
2006 初秋 那須 苦土川 井戸沢 9/24 一人
2002 初夏 那須 苦土川 井戸沢 6/15 家族と