2002年初夏

梅雨の那須

那須 苦土川 井戸沢
2002/6/15

母は謡曲の発表会を控えて膝の調子が悪いという。「那須の幸の湯の打たせ湯にあたりゃぁようなるんじゃがのう〜」
なるほどそうかもしれない・・・年老いた母が楽しみにしている謡曲の発表会・・・母が温泉に入っている間に周辺の山の中でもうろつくことにするか。
次女:朋子と長男:素直はピアノの発表会まで二週間という事で特別レッスンがあるので、長女:敦子を連れて行くことにした。
お目当ては苦土川井戸沢。15年程前に一度、千葉県山岳連盟のお歴々と登ったことがある。
6/14 会社から帰宅して22時出発。

6月15日 雨

0時30分深山ダム着。小雨の降る中深山ダム下の道端で天幕を張る。雨かぁ仕方ない・・・。
本来であれば5時には井戸沢に入渓したいところだが、今回の目的は母を温泉に連れて行く事なので朝10時に母を幸の湯で降ろし、夕方17時に迎えにくることを約束して敦子と深山ダムの奥へ向かう。
三斗小屋宿跡へ向かう林道をフォレスターで進んでいくと大沢への分岐点を程なく行ったところで林道は鎖で封鎖。ゴールデンウィークの時にもここで土砂崩れによる通行止めを食らったが、さすがに一ヶ月以上経過していたので三斗小屋宿跡までは問題なく車で入れるだろうと思っていたのだがガッカリだ。大沢に転進しようかとも思ったが、大沢は下流部の河原歩きが長く河原を歩いただけで時間切れの恐れがあるので当初の予定通り井戸沢へ向かうことにする。
10時30分敦子とおしゃべりをしながらのんびり小雨の林道を歩き始める。敦子は先週尾瀬に行っているのでそのときの話をききながら三斗小屋宿跡へたどり着いた。三斗小屋宿跡には車が数台入っておりなんだか損をしたような気分になる。
三斗小屋温泉へ向かう登山道が那珂川源流部で橋となって対岸へわたっている。その橋の上流50m位のところでガレ場が右岸から入っている。これが井戸沢である。伏流になっているので水流はまったくなく、知らないとうっかり通り過ぎてしまいそうなほどの貧相な出合である。
さて、今回の装備であるが娘に渓流シューズの支度ができなかったので、最近流行のウォーターシューズを履かせる。娘と条件を同じにするために私もウォーターシューズとし渓流足袋は車においていく。このウォーターシューズは先月イトーヨーカ堂で一足1,500円で購入したものだ。
11時40分入渓。
小雨の中、登り始めて15分。すべる岩に足をとられて大横転。肘と腰をしこたま打つ。しばらくは声も出ず。渓流シューズを履いてこなかったことを後悔する。河原は花崗岩の岩塊で埋め尽くされ上流部のナメの美しさに期待が膨らむ。途中で水溜りに取り残された岩魚を助けてあげたりしながら雨の中を登っていくといよいよ美しい花崗岩の井戸沢は本領を発揮し始めた。
先ほどの大転倒にビビってしまってナメ滝が恐ろしく感じる。時折、雨脚が強くなり木陰で休んでいても雨だれがバラバラと体を打つ。
ウォーターシューズはやっぱり沢登りにはダメみたい。15年前にはホイホイ登ったナメ滝の直登に躊躇してしまう。
高巻きの途中で「あっ!」という敦子の声。
「やってくれたぜ」
とっさに身構えるとグッとザイルに過重がかかり見下ろすと敦子がぶら下がっている。
この高巻きはヤブがひどくガスの中で少々心細くなる。これって沢床に降りることができるんだろうか?ガスの切れ間から時々滝を見下ろせる。
沢へ下れそうな窪を見つけ下降する。
沢床に降り立って時計を見ると13時。思わぬ苦戦と母との待ち合わせ時間が17時であることを考えるとこりゃここで下降したほうがよさそうだ。
先ほど苦労して高巻いた滝の右岸の笹の密集した斜面を下降していく。
「こりゃぁ敦子は落ちるな」と思っていると案の定、期待通りのパフォーマンス。私が先に下っていたのでリードの墜落と同じようになった。
衝撃が少々強く、引き込まれる程のショックを感じる。ロープを流して止めたので落下距離が大きくなり敦子はびっくりしていた。
二回ほど敦子をロワーダウンさせ私自身は懸垂下降で滝をくだる。三斗小屋宿にたどり着くと15時30分。
「アッちゃん、温泉は17時までかも知れないから間に合わないかもしれないね」というと
「お風呂に入れないなんでヤダー」と走り始めた。
「アッちゃん・・・待ってぇ!」とついて行くのが精一杯。すごい馬力だ。行きには1時間かかった林道を帰りは30分で走ってしまった。
無事、幸の湯に母を迎え敦子と板室温泉グリーングリーンで汗を流す。「あぁさっぱりした」
黒磯のレストランで夕食を食し深山ダム下の天幕へ帰る。雨が激しい。

6月16日

8時、天幕を撤収し沼原湿原へ向かう。
オレンジ色のツツジが時折ガスにかすんで美しい。日光キスゲはまだまだつぼみ。湿原を一周して、帰路に再び「幸の湯」へよって千葉へ帰る。
参加者:賀来敦子・賀来素明