2006年 初秋

那須 那珂川源流 苦土川

井戸沢

2006/09/24



那須の板室温泉から会津田島へ抜ける林道を奥へと進むと深山ダムがある。その深山ダムのさらに上流にあるのが井戸沢である。
奥那須の山懐、那珂川の最源流である苦土川井戸沢は、美しさ、楽しさといった視点で評価すれば私が遡行した東京近郊の日帰りできる沢の中で五本指に入る沢である。表丹沢や奥多摩の沢とは比べ物にならないほど素晴らしい。少し赤みをおびた花崗岩のナメと階段状の滝、つめは笹原に吸収され藪こぎもない。ちょっと黒部の赤木沢に似ている。
この井戸沢、十数年前に千葉岳連の仲間たちと登ったことがある。憬稜登高会の盛さん、須賀さん、県庁山岳会の関口さん、一同心の上田さん、そして岩ちゃんも一緒だったと思う。花崗岩の美しさと、下降路に使用した中ノ沢のナメに感銘を受けた。
2002年には長女の敦子と再訪した。時間切れで途中までしか行けなかったが、美しい花崗岩の滝の一端に再び触れることができた。
今回、一人で三回目の遡行を試みた。

9月24日(日) 快晴

三斗小屋宿の先にある坂道を下り、那珂川に架かる湯川橋で沢仕度を整え歩き始める。
井戸沢は湯川橋から30mほど先で伏流のガレ場となって左から合流している。出合から振り返ればすぐそこに湯川橋が見える地点だ。拍子抜けするほど近いし倒木がガレ場をふさぎ荒れた感じがするから予備知識のない人は見落とすかもしれない。
伏流のガレ場を忍耐でしばらく登っていくとようやく小さな滝に遭遇する。4mほどの小さな滝で遡行図にあるF1である。水流の右を登る。
これを越えて、すぐにF2である。15mほどの大きな滝で井戸沢の中で唯一登ることができない。右のリッジを使って高巻くが、上部で少しかぶっている。残置スリングの40cm上にあるガバホールドを使って慎重に登る。高さがあるから落ちたらただでは済まない。
高巻きが終わってF2の落口に立つとここから滝が連続している。息つく暇もないほどに連続する。小さなものも、大きなものも全て直登できる。
出合から1時間半弱で奥の二股に到着した。一人なのでついつい急ぎ足になってしまうようだ。ザックを下ろししばらく秋風に吹かれながら真っ青な空と稜線を見ていた。ここで滝場は終わって流石山の山頂まで標高差400m。源流のツメになるのだが藪がないので不快さはない。
ところどころにナメや樋状の滝が続くが源流のツメが青空に向って一直線に伸びている。
時計を見ると11時30分。
先日20歳の誕生日を迎えた敦子のお祝いに家族全員でチープなファミレスへ食事に行こうということになっているので13時までに稜線に立てば19時には帰宅できる。まだまだ充分に時間がある。稜線の直下まで出て腰をおろし家に電話したりお菓子を食べて休む。
流石山の稜線付近の登山道はしっかりとしたもので、左手には稲穂が実った水田に囲まれた会津田島の盆地を見下ろすことができる。前方には茶臼岳から朝日岳、三本槍の山々が立ちふさがり、山腹の森林の中に三斗小屋温泉が見える。右手には深山ダムや沼原の貯水池の湖面が鈍く銀色に光っている。
登ってきた井戸沢に沿って下流方面に目をやると三斗小屋宿の小学校跡地の草原が見える。あそこから来たのかとちょっと嬉しくなるような距離である。
流石山の山頂には年配の登山者が一人座っていた。井戸沢を登ってきたという。どうやら今日井戸沢を遡行したのは二人だけだったようだ。こんなに素晴らしい沢なのに、何という贅沢なことよ。
大峠は会津中街道の要衝で戊辰戦争では会津と官軍が戦った古戦場でもある。古い地蔵さまや石積みにいにしえの面影を想像しながらしばらく休む。そういえば河井継之助の最期も八十里峠を越えて会津へ向かう途中であったことを思い出したりする。
以前、中ノ沢を下山したので今回は峠沢を使うことにする。中ノ沢との合流地点まで下って峠沢は失敗だったと思った。倒木や藪が多いボロ沢だった。中ノ沢の合流点から下流はナメの連続。
14時半近くになって出発点の湯川橋に戻ることができた。


その後、高速道路を休憩なしで走行し18:51に帰宅。大急ぎで風呂に入って着替えをして、お袋も一緒に家族全員でイトーヨーカ堂の2階にあるバイキング食堂で敦子の20歳の誕生日を祝った。


三斗小屋宿 9:02
湯川橋 9:05--9:23
井戸沢出合 9:24
F1 9:43
F2下 9:46
F2上 9:56
二股 10::42--11:04
稜線 12:18
流石山 12:25--12:29
大峠 12:56--13:10
峠沢下降開始地点 13:23
湯川橋 14:25


F2


水流右を登る


15mの大きな滝
水流の右沿いのラインはガバの連続


ここは慎重に左手を登る


右を登る


左を登る。高さがあるので慎重に


黒部川の赤木沢を彷彿とさせる


源流も近い


小さい秋


最源流の流れ

稜線に向って一直線につめていく


稜線の小道


大峠のお地蔵さん


下降路のナメ