2010年 初秋

奥秩父

笛吹川 久渡沢支流 ナメラ沢

2010/09/11

数少ないナメラ沢の見せ場を行く

先週、笛吹川釜ノ沢西俣の帰り道に「笛吹の湯」につかり、「しん源」で食事をして、桃を買って帰った。桃はもうシーズンとしては終わりで、葡萄の季節を迎えていたが、あえて桃を買った。先週何回か妻は朝食のデザートに桃を出してくれた。それは硬くてりんごのよう。
産地の桃が硬いのを知ったのは高校三年生の時のこと。それは広瀬ダムができる前の話。砂田栄作と斉藤裕之の三人で釜ノ沢東俣を登った帰りに、広瀬のバス停でバスを待っていたら、店のおばあさんが桃をくれた。桃の硬さに驚いたっけ。早生まれの私はあの時17歳だった。懐かしい思い出だ。
さて、今年の夏の暑さは異常で今週に入っても猛暑日が続いていた。そんな日本列島に9月8日水曜日、台風9号が上陸。丹沢湖が大荒れになっている映像がテレビで流れた。その日は東京でも土砂降りの大雨で、しかも気温が高く蒸し風呂状態。ところが台風の通過とともに風向きが変わって気温が下がり、夕方には涼しいともいえるような風が吹き始めた。こんな風に吹かれるのは2ヶ月ぶりではないか。
さては、いよいよ秋の到来か。秋であれば青空の下で岩稜を登るのも悪くないなと思っていた。ところが週末になる天気予報は土曜日から猛暑が復活すると告げている。
猛暑であれば、やはり涼しい沢だ。妻に葡萄を食べさせたい気持ちもあって笛吹川を再訪しようと計画した。選んだのはのんびりできそうな久渡沢支流のナメラ沢。初心者向きのナメの連続する沢だとガイドブックにある。稜線まで出ると標高差1100mとそこそこあるので、源流部の手前まで行って、引き返してもいい。

9月11日(土曜日)晴れ

金曜日に夜の仕事が入ってしまい、銀座を出たのが23時過ぎ。東京駅23:37発の千葉行きに乗るのが精一杯。
千葉からの終電には間に合わないので稲毛まで妻に車で迎えに来てもらって、家に帰り着いたのは日付も変わった1時。シャワーを浴びて主な装備を揃え就寝したのが2時。2時間ほど仮眠して4時起床。さすがにちょっとしんどい。妻にとってもしんどかっただろう。
昨夜のアルコールが残っているかもしれないので妻の運転で5時10分千葉北インターから東関東自動車道へ入る。
この時間になると稲城から相模湖にかけての流れは悪くなっており、所々で渋滞する。もう10分遅ければ激しい渋滞にはまっていたかも知れない。
7時半に雁坂トンネル料金所手前の駐車場到着。広大な駐車場には数台の車が止まっていて、その中の一台で沢支度をしている男性が二人。挨拶をする。
車の中で朝食を済ませてから私たちも荷造りをする。先週の釜ノ沢西俣の道具が未整理のままに荷台に散乱しているので、それを整理しながらザックにつめていくのは手間がかかる。50分後にようやく出発することができた。
駐車場に面して林道のゲートがある。林道はコンクリート舗装されており整備も行き届いている。標識に秩父往還との文字が見える。
往還と言う言葉は最近ではあまり聞くことのできなくなった言葉だ。人が行き交うメインストリートと言うような意味だけけれど懐かしい思い出がある。私の生まれた大分県中津市賀来(加来ではなく賀来が正しい)という名の部落に一本の道がある。その道はバス通りから私の生家へと続く道で車一台がやっと通ることはできるが、すれ違いはできない。そのせいぜい100mほどの道を往還と呼んでいた。子供の頃は「オーカン」という固有名詞だとおもっていた。
今回は、妻のためにハイドレーションシステムを用意した。2リットルのスポーツドリンクをいつでも飲めるようになっているので妻はご機嫌だ。林道終点まで40分。妻も10分遅れで到着した。ここから雁坂峠へのいにしえの秩父街道の面影を残す山道へ入る。少し登ると「ナメラ沢」の標識があり、それにしたがって旧秩父街道を離れ沢へ下る。5分ほど峠沢の河原に立った。ここで沢支度を整える。ナメラ沢は5分ほど下ったところで右岸から流入してくる沢だ。薄い踏み跡をたどってナメラ沢に入る。ナメラ沢の下流部は途中で5m滝があるものの、歩きにくい河原歩きが長い。中ノ沢を右に別け更に河原を歩く。倒木も多く、これを越えるのも厄介だ。
美しいナメの沢を期待していたが、荒れた沢である。
ところどころで小さなナメが現れるものの、倒木が覆いかぶさってナメ床を歩くことを許してくれない。
1510m付近で休憩していると鹿の角を拾った。近年、鹿の大繁殖が問題となっているが、不思議に鹿の角を拾うことはない。これだけ山に通っていてこれでたったの二度目である。登山道ではないところを歩くことが多いのでもっと頻繁に遭遇しても良いようにも思うが。
数多くの沢を登って私の目が肥えてしまったのか、期待はずれの感が否めないナメラ沢。もともと長大なナメがあったわけではないところへ、ここ1・2年の内に倒木が増えてしまったのだろう。
それでもところどころでナメ滝が私たちを楽しませてくれる。この沢のナメはフリクションが効かず、良くすべる。微妙な凹凸を注意深く観察して足を置かないと思わぬ不覚をとりそうだ。
しばらく登っていくと、朝方駐車場で会った二人とすれ違った。
「荒れた沢ですね」「以前はこうではなかったんですが、今日は荒れてますね」などと会話する。
二俣を過ぎ、倒木を乗り越えつつ更に登って奥の二俣。1680m。本流である左側は倒木に埋まっている。それは密集しているという表現のほうが適切かもしれない。
ここで遡行を中止することに決定。
ザックをおろし昼食にする。9月だというのに気温が高いせいかブヨがまとわりついて不快。仕方がないので焚き火をして、煙でいぶすとブヨも退散。やれやれと湯を沸かしカフェオレを飲みながら妻の話を聞く。
日々、東京という雑踏の中ですごしている私のような人間にとって、このような山奥の森に囲まれた清らかな渓流の傍らで木漏れ日を浴びながら妻とのんびりとするのは最高の贅沢だと思う。そして秋深くなってから、ここで焚き火をしながらビバークしたらどんなに素敵なことだろう。
往路を戻るために私たちは離れがたい気持ちで立ち上がり、ザックを背負った。


私たちはその後、笛吹の湯で汗を流し、中華料理「しん源」でラーメンを食べ、駅の道「牧丘」で葡萄を買って家路に着いた。中央高速はいつもの通り渋滞していたが20時半過ぎに帰宅することができた。牧丘、良いところだ。


駐車場1190m 8:18
林道終点1375m 8:56-9:08
ナメラ沢下降点1400m 9:20
峠沢沢底1375m 9:23-36
ナメラ沢出合1365m 9:42
5m滝1390m 9:49
中ノ沢出合1430m 10:02
1510m 10:33-51
二俣1590m 11:14
奥の二俣1680m 11:45-12:40
二俣1590m 13:18
中ノ沢出合1430m 13:56
5m滝1390m 14:09
ナメラ沢出合1365m 14:15
峠沢沢底1375m 14:20-43
ナメラ沢下降点1400m 14:46
林道終点1375m 14:57
駐車場1190m 15:30



周辺の記録
2010年09月04日釜ノ沢西俣
2010年07月31日釜ノ沢東俣
2007年08月25日釜ノ沢東俣
2004年08月01日ホラの貝ゴルジュ