2010年 夏

上越

宝川 ナルミズ沢

2010/08/21-22

天国のような草原へと続くナメを行く
撮影:田部井裕介

勤務先の田部井君が沢歩きに連れて行ってほしいと言い始めたのはだいぶ前のことだ。7月になって8月21日22日に行くことが決まった。
同じ職場の50歳代半ばの部長と20歳代の若い社員という組み合わせによる沢歩きパーティーは一般的には珍しいのではなかろうか。歳も親子ほどに離れているし、職場でもそれぞれの課には課長がいるから田部井君に私が直接仕事の指示をすることはほとんどない。こんな組み合わせが実現するのも山登りという共通の趣味があればこそだと思う。
さてどこへ行くかだ。
万が一にでも怪我をさせてはご両親に申し訳が立たない。そこで私の頭の中にある沢ルートライブラリから抽出したのは上越の宝川ナルミズ沢。ここなら増水でもない限り無事に戻ってこられるだろう。
田部井君は沢靴を買って準備万端。私も仕事帰りに24時間営業のスーパーマーケットに立ち寄って食料を調達。ネットからダウンロードした国土地理院の地形図を用意し当日を迎えた。

8月21日(土曜日)晴れ時々曇り

4時に京成八千代台駅近くで待ち合わせ。大きなザックを背負って田部井君がやってきた。
お互いにこにこしながら挨拶をして車を発進。
高速道路は順調に流れ06:01水上ICから一般道へ入る。宝川林道の最終ゲート前には7時到着。共同装備&食糧をそれぞれ均等に分担する。
計画では大石沢出合まで登山道を歩き、BC設営。翌日ナルミズ沢を遡行してBC撤収下山というものだ。だから今日は登山道を4時間歩くだけで良い。それを前提とした食糧計画になっている。ビール、日本酒、ウイスキー、豊富な食材。一泊にしては、ザックはずっしりと重い。
夏の林道は蒸し暑い。汗を滴らせながら辛抱強く歩いていく。杉の植林地帯の林道を一時間ほど歩いてから山道へ入る。登山道は小さなアップダウンを繰り返すばかりで一向に高度があがっていかない。ここも辛抱強く歩いていく。
流れ落ちる汗でシャツがびっしょりになってもなお歩く。ロープがフィックスされた岩場を二三か所通過しようやく徒渉点に到着。ここまで左岸を進んでいた登山道は対岸に移る。ここで沢靴に履き替える。右岸に徒渉し更に登山道へ入る。右岸の登山道は今年になって刈り払いが行われたようでとても歩きやすい。
まもなくウツボギ沢を横断。テントが二張りあった。河原の石には夏の太陽が照りつけてまぶしく反射する。ウツボギ沢から30mほど河原を歩き、再び樹林の中の登山道へ入る。登山道の脇からは清水が湧きだしている個所がいくつもあり、そこがぬかるみになっている。泥だらけになっても沢靴だから気にならない。ウツボギ沢から一時間を要して大石沢にたどり着いた。
大石沢を40mほど下るとナルミズ沢に合流する大石沢出合である。目の間には高さ2mの美しい滝があってプールのような釜を持っている。左岸には緑の草原が広がり開放感のある明るい場所だ。
良いサイトはないかと見渡すと30mほど下流に整地された場所がある。ここにタープを張ることにする。ところがタープの支柱にする流木が全く存在しないのである。つまり焚火の薪として流木は取りつくされてしまったようだ。仕方がないので大石沢を上流まで登り、ようやくタープの支柱に使えそうな流木を拾ってきた。
タープを張って、ビールを冷やしながらから水浴びをする。真夏の太陽の下を歩いてきたので体が火照ったように熱を持っていることがわかる。田部井君と二人でパンツ一丁になって流れに体を浸す。頭から水をかぶる。まるで小学生の頃の夏休みだ。大分の川で従兄弟たちと過ごした夏休みのシーンが思い出される。
着用していた化繊のポロシャツとズボンもざぶざぶと洗う。体がクールダウンされとてもさわやかで気持ちがいい。岩の上に腰をおろし、ビールを飲みながらザル蕎麦を茹でる。田部井君は薬味のネギを刻んでくれた。ナルミズ沢の流れで冷たくしめた蕎麦はとても美味しい。540gを茹でたが少し残しただけでほとんど食べつくしてしまった。少量残った蕎麦は味噌汁にても入れて食べることにする。
おなかいっぱいで岩にもたれかかっていると二人の女性遡行者がやってきた。山慣れた感じが雰囲気でわかる。その中の一人が目の前の滝でウォータースライダーをして滝つぼへ飛び込んだ。よっぽど暑くてたまらなかったのだろう。これで今日の岩魚釣りはおしまいかな?などと思う。
田部井君は釣りが上手で今回は岩魚釣りを楽しみにしているようだ。さっそく川虫を採取にいった。私は強い日差しを避けるようにしてタープの下で昼寝。しばらくして釣れないということで戻ってきた。田部井君もタープの下に入ってきて昼寝。本当に眠り込んでしまった。
目を覚ますと5時近い。
夕方になれば岩魚が釣れるかもしれないので再び田部井君は釣りに行く。
夕食の準備を始めなければならないがザル蕎麦を食べすぎたせいでまだおなかが空かない。明日の弁当に使う飯を炊かなければならないし、800gもの豚ロースも今日中に火を通しておかなければならない。ビールを飲みながら米を入れたコッフェルに水を張り田部井君が帰ってくるのを待つ。田部井君が戻ってきてから飯を炊き、ランタンに灯をいれて豚ロースを塩コショウで焼く。
まず炊きあがった飯を明日の昼食用の弁当箱に入れる。そして食事。肉を二切れづつ食べるのが精いっぱい。あとは酒を飲みながらとろとろとしていた。本当は焚火をしたかったけれど薪となる流木が全く存在しない以上あきらめるしかない。夜20時を過ぎた頃ランタンの灯を消した。、

8月22日(日曜日)曇りのち晴れ

4時起床の予定だったが少し寝坊して4時11分起床。前日に炊いてあった飯にレトルトのカレーを添えてまず一杯食べる。次に残ったご飯を鮭雑炊にして食べる。明るくなってきた。弁当箱に豚ロースの塩焼きを二枚づつ入れる。
支度が整って出発したのは5時半前。上流方面から焚火の煙が流れてくる。いい香りだ。昨日通過した二人の女性パーティーが朝餉の支度でもしているのだろうか。
なんの問題もない河原とナメのナルミズ沢を遡っていく。ところどころに良いビバークサイトが散見される。
しばらく行くと、焚火の煙はいよいよ濃くなり先行者のビバークサイトは近い。たどり着くと恰好のビバークサイトで二人の女性が焚火の前で食後のお茶を飲んでいた。
そうしたら焼いたベーコンの厚切りをふるまってくれた。沢は平坦なナメの連続。魚止めの滝を除いて滝らしい滝もない。赤木沢のようなナメを登っていくと二俣に到着。
ここで最初の休憩。
あいにく空は雲に覆われ、特に稜線の方角にある雲は黒い。稜線は霧雨が降っているのかもしれない。
二俣は右を行く。この近辺からナルミズ沢は少し傾斜を増す。ところどころ樋状になっていたり、2・3メートルの滝になっていたりする。時にはお助け紐を出したりしながら登っていく。すると突然のように沢の左右が草原となって広がりクッションのような苔が生えたナメが奥の二俣まで続いているのが展望された。
なんという美しさ。思わず二人で歓声をあげた。
単独行の男性が追い付いてきて「美しい沢ですね」と私たちに言う。
私たちもそれに同意する。
青空が広がっていればどんなに美しいことだろうか。残念ながらガスが近くまで降りてきている。
奥の二俣でのんびり腰をおろして湯を沸かしコーヒーを淹れる。
奥の二俣は左へ入る。草原の中をナルミズ沢は緩い傾斜で蛇行していく。水枯れの手前で水を十分に補給し草原の中の踏み跡を登っていく。
やがてガスの中に突入。踏み跡をたどっていくと笹原となり、まもなく越後との国境稜線に到着。ガスが流れ笹には水滴がついてズボンが濡れる。ガスに覆われて展望もない。
ジャンクションピークへの笹原の登高は少々難儀だった。踏み跡はしっかりしているものの左右から笹が覆いかぶさって遠目にはルートはわかりにくい。そして渓流シューズのフェルト底が濡れた笹に滑り腹立たしい。とは言え露でびしょぬれになるので運動靴を履くこともためらわれる。我慢をしながら忍耐で小一時間登り続ける。途中で男女二人連れの遡行者とすれ違った。おや?なぜ逆走しているのかなと思い訊ねると湯檜曽川本谷を遡行しナルミズ沢を下降するのだという。面白いプランだが、可愛らしく美しいナルミズ沢を下降路として消費してしまうのはもったいないような気もする。
奥の二俣からノンストップ一時間半でようやくジャンクションピークに到着。ここは高校二年生の7月に通過しているけれど記憶にはほとんど残っていない。
ジャンクションピークで運動靴に履き替え登山道をたどる。15分ほどで朝日岳の山頂に到着。記念写真を撮ってからすぐに水場へ下る。大石沢出合方面へ数十メートル下ったところに水場があるので、そこで昼食タイム。ようやくガスが切れ始め展望がききはじめた。ジャンクションピークから朝日岳へと続く稜線を歩く二人連れが見えた。アライテントのピンクのザックだから朝方厚焼きベーコンをごちそうになった二人だ。手を振ったら振りかえしてくれた。その二人も水場までやってきた。
少し話をしていると「ひょっとして賀来さん?」という。お二人は都岳連の黒稜山岳会の方だった。
大石沢出合を経て宝川温泉へと続く下降路は刈り払いが行われており明瞭で歩きやすい。ただし上部にある岩場の部分だけは踏み跡がはっきりしないし、マーキングも薄くなっている。ガスが濃い場合や夜道だと戸惑うかも知れない。
この登山道は中盤で一気に高度を下げていく。それは一直線に標高差100m下まで見通せる道で、めったに見られない光景だ。結局水場から50分で大石沢出合に到着するとジャンクションピークへの登りですれ違った湯檜曽川遡行男女パーティーが下って来たところに丁度遭遇した。二人は私たちの後についてきて河原を下り始めたが、すぐに気がついて「登山道はどこですか」と私に問う。登り口を伝えると二人は踵を返すようにして登って行った。
私は再び水浴び。ああ気持ちがいい。予定よりもだいぶ早めにBCへ帰り着いたので支度ものんびりできる。全てのゴミを背負って下山を開始したのは12時。
ナルミズ沢を登っているときには曇っていた空も再び夏の太陽を取り戻したかのようだ。相変わらず汗を滴らせ下山を急ぐ。15時前に最終ゲート到着。
計画では湯テルメ谷川で入浴予定だったが宝川温泉がなんだか面白そうだということになり行ってみたが、結果として大失敗だった。
1200円を支払って中に入ると古民具や瀬戸物などのガラクタがゴミステーションのように積み上げられており不気味な雰囲気だ。その先には熊の檻。5・6頭のツキノワグマが飼われているようだが、糞尿にまみれた檻からは異臭がしており、動物虐待を感じられて何ともやりきれない。そこを通過するとようやく宝川沿いの露天風呂に到着。想像していた通り洗い場はなくシャンプーも石鹸もない。体をきれいに洗うことのできないこのような温泉は山から下山してきた登山者が入るには不適のような気がした。それから宝川温泉は混浴で若いアベックなどがいたのには驚かされた。
宝川温泉はに立ち寄ることは二度とないだろう。 山の汗を流すのならやはり「湯テルメ谷川」が一番いい。
高速道路では多少渋滞に巻き込まれたものの21時半頃八千代台に帰着することができた。


8月21日 8月22日
宝川林道最終ゲート 7:40 大石沢出合 522
林道終点 8:32-40 魚止めの滝 6:00
徒渉点 10:02-10:24 二俣 6:24-34
ウツボギ沢出合 10:46 奥の二俣 7:14-39
大石沢出合 11:37 国境稜線 7:59-8:03
ジャンクションピーク 9:13-28
朝日岳山頂 9:43-45
朝日岳水場 9:49-10:23
大石沢出合 11:09-12:09
徒渉点 12:53-13:12
林道終点 14:16
宝川林道最終ゲート 14:55

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周辺の記録
2008年10月3・4日の巻機山米子沢
2004年9月4日の巻機山米子沢