2008年 冬

北八ヶ岳

しらびそ小屋・黒百合平

2008/12/6--7

しらびそ小屋の夜明け

妻と二人で誰もいないタンネの森の雪を踏みしめニュウを目指してシャクナゲ尾根を登ったのは昨年の12月1日のことだった。
その日、針葉樹の森の中にあるみどり池のほとりにひっそりと建つ「しらびそ小屋」に私たちがたどり着いたのはもう夜のとばりが下りようとする時刻だった。
クリスマス山行として訪れていた「山岳グルッペカモシカ」のメンバーと過ごした一夜は楽しいもので、小屋の主である今井行雄さんの穏やかな人柄にも惹かれるものがあった。
あれから一年が過ぎた。今井さんとカモシカの皆さんへのお礼の品を用意して今年もしらびそ小屋へ行ってみようと妻と計画した。

12月6日(土) 風雪

四街道を4時に出発し、息を呑むような真っ白な南アルプスの山々を見ながら黎明の甲府盆地を突っ切る。
清里、野辺山を過ぎ、佐久へ入る頃にはすっかり夜も明け切っていた。
薄日が射し初冬の空に周囲の山並みが浮かんでいるが、私たちがこれから向かおうとしている八ヶ岳だけが灰色の雲に覆われている。
風も強く路面には粉雪が時折渦を巻く。日影はツルツルのアイスバーンだ。
みどり池への登山口となる唐沢橋の駐車場には7時40分に着いた。

8時半、しっかりと冬支度をして歩き始める。風が強く落葉松がゴーゴーとうなっている。林道をつき抜け針葉樹の森に入る。
この季節にしては雪が多い。東京ではここ一週間の内に雨が降ったが、これが山では湿雪となったようで、針葉樹には半ば凍りつくように雪が付着している。
汗をかかぬようにゆっくりと登っていく。
雪の舞うしらびそ小屋には二時間ほどで到着した。
小屋の中に入ると先客は居らず私たちが今日始めての客だったようだ。
熊笹茶とカリントウのおもてなし。宿泊の手続きをしていると奥さんが「今日は団体が二組入って混み合うので申し訳ない・・・」と謝る。新館へ行きザックをほどいているとお兄ちゃんが鋳物のストーブに大きな薪をくべてくれた。
お兄ちゃんに「これから黒百合平まで行ってくる」と告げると
「上は荒れているから・・・」と言って心配そうに顔を曇らせた。
「寒かったら引き返してくるよ」とこたえるとようやくにっこりとしてくれた。
11時20分。外に出る。外気温はマイナス10度。
上空は風が強く風がうなっているが、森の中には風はほとんど吹き込まない。トレースを追いながら本沢温泉への道を左に別け、稲子岳の裾を回りこむようにして歩いていく。降りしきる雪を通してぼんやりと稲子岳の南壁が見える。その昔、岩崎や砂田と登ったことがある。ハーケンがビーン・ビーンと歌う花崗岩の壁。最近は訪れる人もまれらしい。中山峠への道は峠の直下まで平坦で、最後になって急に傾斜を増す。ところどころで深い雪に難渋する。
妻は山に行くたびに思わず吹き出してしまうようなエピソードを提供してくれる。今回はミーアキャット。当人が大真面目なだけにおかしさもひときわだ。
いつものシャウエッセンのお弁当を黒百合ヒュッテで食べようと思っているので、昼を過ぎているがガマンして登っていく。だが、いわゆるシャリバテ状態で足はあがってくれない。苦労しながら中山峠に出た。指導標から木々に至るまでびっしりとエビの尻尾が付着し天候の悪さを物語っている。
黒百合ヒュッテの前には三つほどテントがはってるが、ヒュッテの中には人はほとんどいなかった。お茶つき休憩300円を支払ってストーブを囲んで妻と座る。そしてお弁当を食べた。ご飯が凍りつくように冷たく固かった。お茶をかけて食べた。ご飯が冷え切っていたからお茶をかけてもすぐに冷水のようになる。それでもやはり美味しかった。
15時、しらびそ小屋へ戻るために黒百合ヒュッテを出た。相変わらずの天候である。お弁当を食べて元気回復、足取りも軽く下っていく妻。40分ほどでしらびそ小屋に戻ることができた。
しらびそ小屋にはすでに団体二組が到着していた。一組は山岳グルッペカモシカの人たち。もう一組は写真愛好家のグループだという。新館の談話室「天狗岳の間」ではすでに写真愛好家グループによる宴会が始まっていた。その中に見覚えのある人がいる。目を凝らしてみると6年前のゴールデンウィークに土橋さんと一緒に北鎌尾根を登った斉藤さんだった。ということはこのグループは山岳写真同人「四季」なのかもしれない。いずれにせよ、こんなところで遭遇するなんてお互い大いに驚いたのは事実である。
宴会はすでに大いに盛り上がっている。私たち夫婦は玄関ホールの薪ストーブの前で椅子に座ってカワハギを焼きながら紙パックのお酒を呑んだ。
夕食の時に山岳グルッペカモシカの皆さんと再会を喜び合う。お酒を注いでもらって酔っ払ってしまった。
寝所は談話室でもある天狗岳の間。玄関ホールのストーブに火が入っているので暖かい。
ゆっくりと眠ることができた。

12月7日(日) 快晴

明るくなって写真撮影のために皆が起きだした。外へ出てみると快晴である。寒暖計はマイナス15度をさしている。
これから朝焼けが始まろうとしていた。
妻にも声をかけ羽毛服を着込んで外に出た。みどり池の縁に三脚が並ぶ。天狗岳東壁が赤く染まっていく。赤かった東壁はやがてピンクになりそして青空の下で真っ白な姿にかわって行った。
とろろの朝食をいただき部屋でくつろいでいると今井行雄さんが布団を仕舞にきた。
昨年のお礼として「賀来家のファミリー登山」のホームページを印刷してバインダーにまとめて持ってきたことを伝える。とても喜んでくれ、談話室「天狗岳の間」に置いてくれた。
10時小屋を出る。
真っ青な空に落葉松がまっすぐにのびて、太陽の光がうっすらと雪の積もった枯れ草の上に注いでいる。そんな広場で休憩する。もう車まで10分ほどの場所である。
いつもの通りコーヒーを淹れ、いただいたりんごの皮をむく。
昨年と同じように小海リエックスの星空の湯へ直行。今回もゆったりと湯につかることができた。

来年も機会があれば再び訪れたい。妻が言うには雪のない時期に是非とのこと。稲子岳にコマクサの咲くころに再訪してもよいかもしれない。



中山峠直下を行く



中山峠・黒百合平間の樹林



しらびそ小屋にて



楽しく語らうひと時



凍りついた窓ガラスをこする妻



撮影に余念のない斎藤さん



薪とツララ



下山の日



青い空にのびるカラマツ


右は片桐のニュークラシックという名のザック
6月13日発注、11月27日受領
40リットルの容量は最も汎用性の高いサイズであろう
左は小勝さんのハンドメイドザック

ピッケルはシモン・スーパーD