最近の雑誌とカタログから

山と渓谷2006年12月号

昨日、山と渓谷誌の編集者と話をしていて「山の雑誌の記事」が話題になった。
長年山登りをしている人で月刊誌「山と渓谷」を読んでいる人は少ないと思う。本屋でパラパラと軽く立ち読みすれば良いほうで、表紙に書かれている見出しだけをみて、通り過ぎていくというのが大方だろう。勤務先でも山登りの好きな人がいて「山の雑誌は5年サイクルでまったく同じことばかりを繰り返し特集しているように感じる」などといっているのを耳にしたことがある。「岳人」も同様だと私は思うが、これから山を始めたい人や始めて数年の人を読者に想定しているのだから人気の山域やテーマを中心とした定番を重視するのはやむをえない。
ところが同じような題材を繰り返しているのはいわゆる「特集」とされているカラーグラビア部分だけで、モノクロのページに目をやると一変して読み応えのある興味深い記事が載っている。
それらの記事は、表紙の見出しや予告にも記載されておらず、内容もじっくり読ませるものなので本屋の立ち読みで済ますことができない。
定価900円に値する記事が今月号にもあった。

追悼石岡繁雄「ナイロンザイル事件」21年間の輪郭

急いで書店へ行って、できる限り多くの人に読んでもらいたい記事である。
一般的には石岡繁雄氏といえば井上靖の小説「氷壁」のモデルとなったことがあまりにも有名だ。映画化されたし幾度かテレビドラマ化もされた。
私が石岡繁雄氏を初めて知ったのは30年ほど前の岳人誌上だったように思う。出海栄三氏が執筆していたクライミングに関わる事故防止技術の連載でナイロンザイル事件が取り上げられ石岡繁雄氏の執念を知った。私はこの記事がきっかけとなってクライミング技術に対して深く考えるようになった。肩がらみによる確保が一般的だった当時、いち早くサレワのザイル制動器を使用し始めたのもこれによる。
当時すでにザイルは切れるということは石岡繁雄氏による努力によって一般的に認識されていたが、30年前の岳人誌上における記事の内容は非常にショッキングなものだった。
切れたザイルの製造元である東京製綱の蒲郡工場の敷地内で日本山岳会の篠田軍治氏によって公開実験が行われた。本当にザイルは切れるのか?本当にザイルはエッジに弱いのか?
注目の実験の結果ではザイルは切れなかった。それは公開実験に先立ち、ナイロンザイルが切れないように篠田軍治氏が実験装置に細工をしたからだというのである。
ザイルが岩角に弱いという事実よりも偽装実験が行われたという事実にショックを受けた。
篠田軍治氏と東京製綱が癒着していたと思わざるを得ない内容に「山の世界にこんな汚いことがあるのか」と若い私はショックを受けたのである。
山と渓谷の12月号では、あらためてこのいきさつが詳しく紹介されている。
さて、石岡繁雄氏の最大の功績としてナイロンザイル事件があげられるがもう一つの金字塔がある。それが穂高屏風岩の初登攀である。終戦直後の昭和22年、貧しい時代に教え子の中学生と一緒に屏風岩中央壁を初登攀する。石岡繁雄著「屏風岩登攀記」(中公文庫)は一気に読ませてくれる好書である。

ナンパ・ラで中国軍がチベット難民を射殺、100人以上の登山者が目撃

山と渓谷の楽しみの一つが池田常道氏による記事。今月号の記事の中に表題のものがある。詳しくは「Rock&Snow34号」で池田氏が2ページに渡って記述しているので是非参照願いたいが、山と渓谷の記事の中で池田氏は「日本のマスコミは奇妙な沈黙を守っている」と記している。
誌面の中でこの事実を伝えるサイトがいくつか紹介されている。
地域社会や国際環境の上に登山もクライミングも成立していることをあらためて肝に銘じる機会を与えてくれた。
MountEverest.net
EverestNews.com
International Campaign for Tibet
Phayul.com

その他の記事

「山岳地域のポーターの権利を考える」と山口耀久氏による「連載アルプ豊饒の時代」も読み応えがある

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