ROCK & SNOW 24
今号も読み応えのある記事が3本ほどあって深く感動した。
何事にも目先の儲け主義が優先されるこの時代にこの水準を維持するのは並大抵のことではないと思うが頑張って欲しい。目先の儲けにとらわれて節操のない雑
誌を排出していればいつの日にか読者に捨てられる。良心に基づいた雑誌作りをしていれば単価が上がっても読者はついてくる。
とはいってもそんな奇麗事では済まないということは「岩と雪」の廃刊とリニューアル前のロクスノの創刊が如実に物語っているので、あんまり無責任なことをいうわけにはいかないが、とにかく頑張って欲しい。
それにしても三ヶ月に一度の発行には渇きを覚える。単価が3,000円に上がるか、ページが三分の一になっても良いから二ヶ月単位で発行してくれることを望む。
そういえば往年の「岩と雪」は二ヶ月に一度の発行だった。
当時、クライミングの情報に飢えた私達は二ヶ月後の次号までの間に10回くらい読みなおしたのではなかろうか。だから編集後記の一言一句までも暗記していたものだ。
今24号では久しぶりに「岩と雪」の大御所である池田常道氏執筆のK2に関する記事もあって相変わらず筋の通った歴史観に感心すると共に懐かしく読むことが出来た。
次25号は9月の発売だと言う。とにかく待ち遠しい。
小山田大がオーストラリアの困難なボルダー課題を総ナメしたという。
昔ジェリーモファットがトニードウズ(少々うろ覚え・・・)等と来日して日本の難課題を総なめしていった時に日本と欧米のレベルの差を改めて思い知らされ
た。だから平山祐示の渡欧を知ったときに期待もしていたが、心の隅で平山でも太刀打ちできないかもしれないと思っていたクライマーは私だけではなかったと
思う。だから「クライミングジャーナル」が難ルートを次々に登りヨーロッパツアーを開始したとの第一報を他に先駆けて報じたときに大げさでなく誰もかれも
がこぞって驚喜し興奮したのだろう。
その後の平山の活躍は周知のとおりだが、彼ほどのインパクトを私たちに与えてくれる次がなかなか出てこなかった。
この記事を読んで久しぶりに感動した。
ボルダーグレードに関する座談会ライブである。非常に緊迫感あるやりとりに固唾をのみながら読んだ。
討論の対象となっているのは私などには雲の上の存在であるグレードである。そういった次第だから私個人にとっては今のままの段・級グレード体系であっても別に不都合はないのだが往年のグレーディング論争を思い出した。
もう20年くらい前になるかしら?うろ覚えだが論争の要点は次のようなものだったと記憶している。
RCCUグレード改訂委員会はUIAAグレードとリンケージしY級から上を開放しているとしていたが、実際にはZ級のグレーディングは行われず、同じY級の中に5.9から5.10a,5.10b,5.10c,5.10dあたりまでが含まれていた。
そこへ森徹也氏がドロミテでの高難度UIAAグレードの経験をバネにして明星でフリースピリッツ・マニフェストを開拓しUIAAグレードに準拠したZや[のグレードをつけて「岩と雪」に発表し、問題提起を行ったのである。
これに対してRCCUグレード改訂委員会の戸田直樹氏らが反論。理論的にも森徹也氏らの主張の方が筋が通っていたにもかかわらずRCCUグレード改訂委員
会はこれを認めなかった。少なくとも私の周辺ではこの論争がきっかけとなっていわゆるRCCUグレードは過去の物となってしまったのである。
今回のライブを読んでいて小山田大の主張は当時の森徹也氏らの主張と内容的には類似していると感じた。すなわち小山田大の主張が正しい。痛いほどわかる。
一方、座談会は室井登喜男を糾弾するような形で進行し、それに対して彼はほとんど反論できず詫びを入れているというところに胸が痛んだというのが偽らざる
ところである。司会役の北山さんも杉野氏もユージも登喜男君の母親である室井由美子氏に連れ添っていた彼の子供時代を知っている。彼らはさまざまなフォ
ローをしていた。
私は登喜男君とは直接話をしたことはないが心配した。
座談会は4月9日に行われたようだが、4月12日と4月24日に登喜男君が行った小川山の初登の投稿をクロニクル欄に見て胸をなでおろした。
☆・・・かなり昔の話だが登喜男君の母親の由美子氏も登場する「冬期ルンゼ登攀論争」や「渓谷登攀論争」な
どもかつて語られたことを改めて思い出した。その時に語られたそれぞれの主張が現在の私達の内面的な部分の血となり肉となっているということ
をつくづく感じるのである。
この連載の第一回目を読んだ時に私が思ったのは「この連載でマーズを取り上げなければ企画自体が成り立たないだろう。いつマーズを掲載するのか」という苛立ちにも似た期待だった。
編集後記で北山さんが「マーズがこの企画のきっかけとなった」というようなことを記しているのを読んで然りと合点した。
と同時にそれは岩と雪134号のインパクトがあまりにもショッキングだったことを物語っているのだと思う。これは当時のクライマー全員が一致してショック
を受けたと断言できるほどのものだった。吉田和正とは世間話をしながら大笑いしたり、また軽蔑されたりもしたが、あの記事を読んで吉田の真摯な姿に誰もが
心を強く打たれたのだ。だからこそリニューアルされたロクスノ上で一見不謹慎とも思える吉田のインタビューに異論を聞くことはなかったのだと思う。つまり
彼の不謹慎な発言の裏に余人には計り知ることの出来ない真摯なものがあるということを読者の多くが知っていたからだろう。
個人的にはこの記事がもっとも印象に残った。吉田和正は今どこで何をしているのだろうか。クライミングに関しては「賀来さん最低だな」と軽蔑されるだろうが、また会ってシーサイドの昼下がりに○○○○のバカ話で笑い転げたい。