最近の雑誌とカタログから

岳人2007年1月号

久しぶりに岳人を取り上げたい。今号には良い記事がいくつかあって読ませてくれた。
岳人は顧客セグメントが絞り込まれているので編集方針も立てやすいのだろう。

登山クロニクル・・・中国四川省・横断山脈ロンゲサリ峰「沙棘(サージ)」開拓

「登山クロニクル」欄は単なる登攀記録速報としてパラパラと読み飛ばしがちだが、クロニクル欄には意欲的な山登りの現在形が顕著に表現されていると思う。だからこそクロニクル欄にどうでも良いような記録が掲載されるとがっかりしてしまう。がっかりさせられることは岳人にも多いしRock&Snowでも少なくない。編集者の資質を疑ってしまうような記事を時折見ることがある。
さて今号で目を惹くのはこの記録である。
まずはメンバーの中に大内尚樹、柏瀬祐之、溝渕三郎がいることを発見して驚いた。
中国にヨーロッパアルプスやトランゴのような素晴らしいフィールドがあることを紹介した中村氏の研究を取り上げたのも岳人である。毎号、時にはグラビアを使用して紹介された中国のアルパインクライミングあるいはビッグウォールクライミングエリア。クライマーの誰もが息を呑んだと思う。こんな素晴らしいフィールドに意欲的なクライマー殺到とはならなかったことに、数号前の岳人誌上で池田常道氏は疑問を呈していた。すぐにでも行きたいと思った人はかなりいたと思うが、中国の事情を慮って躊躇した人も少なくなかっただろう。
今回の記録からは、フィールドの素晴らしさと、未知の壁へ向う開拓の高揚感と、さらには気心の知れた仲間たちと登る楽しさが、伝わってくる。こんな山登りがしてみたい。

俺は沢ヤだ!U・・・成瀬陽一

タイトルや写真から受ける印象は成瀬氏による言いたい放題の記事のように見えるが、核心を突いている一節がある。しかもわかりやすく平易に記述しているので取り上げてみた。よく登山の魅力の一つに「未知への挑戦」をあげる登山者がいる。とくに沢を好む人に多いように思う。成瀬氏も夢を倍化させていくようなプロセスを経て「しびれるような感覚が未知の沢の遡行にはある」と記述している。氏はそのような山登りをしたいという。
「どのような山登りをしたいのか」という自分自身への問いかけを抜きにして行われる登山は、たとえ「日本中の名だたる険谷を片っ端から遡行」したとしても「日本百名山を追いかけているのとさして変わらない」という。
多くの人に一読をお勧めしたい。

ひとり雪黒部「11本の北アルプス横断の試み」・・・中島春樹

こういう登山者がいるのかと驚く。単独で雪の黒部を横断しよう11回もトライしたというのだ。京大山岳部出身で、山登りのために富山へ居を移したらしきことが記述されている。
そして山とは何かという問いかけに対して
「生きていることの実感」と答えている。
冬の驚異的な記録に細貝栄氏を思い出した。

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