2003年夏

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二子山 中央稜

2003/06/14

上田さんと安藤医師から「6月に甲斐駒赤石沢奥壁の中央稜に行こう」という話があったのは3月下旬のことだった。
歳をとると気が早くなると世間ではいうが、三ヶ月も先のことを決めたがるというのは、老人力の賜物である。
そうこうしているうちに、だんだん6月が近づいてくる。
ボルダラーと化した私には23年ぶりに黒戸尾根を登らなければならないということが、どうも憂鬱になってきた。
ところが上田さんは情け容赦ない。計画がどんどん具体的に進められていく。そのうち黒戸尾根を登らざるを得ないと観念しはじめた。
梅雨に入り天候が芳しくないが、雨が降っていることを理由にして勘弁してくれるような上田さんではないので、雨中の登攀を覚悟するまでになっていた。
そんな黒戸尾根から二子の中央稜へ変更になったのは、出発の二日前のことだった。予定していた週末の天気予報が降水確率60%を予測していたからである。上田さんにも良心というものが少しは残っていたらしい。内心ほっとしたというのが正直なところである。ちなみに上田さんは先週も二子の中央稜を登っており、そのホスト役に徹した心意気に敬服。

ハイキングで参加される上田さんの職場の石脇さん、年輩の和田さん、若い和田さんと共に四街道を出発したのは6月13日金曜日の20:30だった。
23:00下吉田のキャンプ場に到着すると一泊1,000円の風呂・ガス・コタツ・電子レンジ・オーブントースター・水洗便所付きの豪華宿舎で、すでに宇都宮山の会の安藤医師と高橋さんが酒を飲んでいた。1時まで酒を飲む。

6月14日 晴れのち曇り

朝起きてみると陽が射し込んでいる。
何という幸運。濡れた石灰岩のホールドはヌルヌル状態で、その登攀は苦行そのものになってしまう。
坂本という部落まで車で移動し、ここから登り始めることになった。普通は股峠近くの林道まで車を入れるのだが、これではハイキング隊「石脇さん、年輩の和田さん、若い和田さん」の歩行時間が極端に短くなってしまうのでこういう次第になった。
40分ほど汗をかいて祠エリアへ到着。
「なるべく体力を消耗しないように」という配慮など微塵もない歩行速度。相変わらずエンドルフィン中毒の症状が治癒されない上田さんのペースに汗をかかされた。
取り付き点でハイキング隊「石脇さん、年輩の和田さん、若い和田さん」が見守る中、登り始める。若い和田さんは岩登りに興味があるという。
前途有望な若人が岩登りに興味を示すというのは、複雑な気持ちだが若い頃の自分自身を思い出し当然のような気もして嬉しくもある。
パーティー構成は「高橋・上田」と「安藤・賀来」
木々に囲まれた1ピッチ目は多少岩が湿っておりヌルヌルと滑ったが、高度が上がるにつれて岩も乾きはじめガバの連続でグイグイ登る。岩場は私たちだけの貸切状態で写真などをとりながらのんびり登りつづける。ガバホールドを使って傾斜のあるすっきりとした白い石灰岩の岩場を登っていくのはなんとも爽快な気分である。昔見たカランクの写真を思い出させてくれる。
3ピッチ目の核心部では躊躇することなく残置スリングをつかみRCC型ボルトの頭にのった。
広いテラスで食事などをしてのんびりくつろぐ。テントが張れそうな広大なテラス。先週、上田さんたちはこのテラスで休憩もせずに登り続けたと言う。結果として中央稜を1時間で駆け抜けるというあきれた登攀で、写真を撮る暇もなかったと後ほど尾崎さんがぼやいていたいわく付きのテラスである。
上田さんいわく「終了点で、写真をとる時間もなかったとみんなに睨まれて、あぁ、こういうことをしてはいけないんだなと気付いたんだよね」と笑っている。先週の川崎・西村・尾崎パーティーは本当に気の毒だった。
さて、ハイキング隊「石脇さん、年輩の和田さん、若い和田さん」はすでに二子の山頂に到着しコールをしてくる。こちらから彼らを見ていると凄い場所に立っているように見える。若い和田さんから携帯に電話がありこれから下山するので車で待っているとのこと。
ここから安藤医師がリードする。安藤医師は岩登りがうまい。
トポをもってきていない私にはこれから登ろうとするピッチがどのような内容なのかはさっぱりわからないが、先行する「高橋・上田チーム」は40m目一杯までロープを伸ばしてピッチを切っている。おかげで安藤医師のフレンズを借りてビレイポイントを作らざるを得なかった。
安藤医師のリードに導かれて登っていくと高橋さんが座っている。その上には上田さんもいる。見ると二人共ハーネスをつけていない。
どうやら終了点に着いたらしい。
上田さんが、さっそくドリップコーヒーを入れてくれ、4人で岩に腰をおろし飲む。
初心者向けのマルチピッチルートと位置付けられる二子の中央稜だが素晴らしい三ツ星ルートである。
何とか天気ももってくれた。雨の中の黒戸尾根を覚悟していた私たちに思いもよらぬ天からのプレゼント。

「石脇さん、年輩の和田さん、若い和田さん」にはすっかりお世話になった。


赤谷温泉小鹿荘の露天風呂に入り、今日は早い時間帯に帰宅できそうだが、明日の日曜日は何をして遊ぼうか。
え?
上田さんは来週も二子山中央稜ですって?
「いやあ石田さんとここでバーベキューの約束しちゃってんだよね」とのこと
三週連続
絶句