2002年秋

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息子と秋を歩く

日光 女峰山
2002/10/12

秋の夕暮れの下山
山の影になった夕暮れ時の林道を息子と二人で車へ向かう。
白樺林をすかして雲ひとつない夕暮れの空に女峰山が赤く染まって見える。
手が冷たい。吐く息も白い。
「もうすぐだよ」
「うん」
良い山行だった。

10月12日 快晴

落葉松の黄葉の朝、裏男体山林道の車止めゲートへ到着したのは11時。
千葉四街道の自宅を出発したのが4:50だったから6時間以上の運転で足腰が固まっていたが、ドアを開けて車外へ出て伸びをすると、山へきたなぁとうれしくなる。
先週は長女と男体山へ登ったのだが、今日は女峰山へ登ろうとやってきた。次女は部活動、長女は中間試験勉強ということで、今回は長男の素直と二人きりの山行である。
「志津越え」から女峰山への最短コースの登山口である馬立てまで林道を車でいけるのかなと期待していたが、途中で車止めゲートがあった。
長い林道歩きになるかもしれないが、長男と二人で歩き始めた。
快晴の秋空で風もない。ほとんど葉を落とした白樺林と黄色く色づき始めた落葉松林の山腹を林道はゆるやかに女峰山へと向かっていく。
女峰山を見るとずいぶん遠くに見える。これは結構長い林道歩きになりそうだ。風がないのでぽかぽかして汗ばむくらいだ。長男と手をつないでのんびり歩いていく。
馬立てに到着したのは11時35分。立派な道標が立っていた。おおよそ2kmほどの林道歩きであったようだ。馬立てからさらに林道は富士見峠方面へ続いている。
馬立てから女峰山への登山道は右手の針葉樹林の急な坂道になって下っている。こんなに下っていいんだろうかと不安になったが、標高差50m程下って開けた沢に降り立ち、対岸の斜面を登り返していく。
ゆるやかな斜面が続く。登山道には落ち葉が敷き詰められ、それを踏みしめながら登っていく。ところどころに針葉樹が混じり、木をすかして斜面に点在する紅葉が目に鮮やかだ。
だんだん急斜面になってくると右の斜面から沢音が聞こえてきた。沢を横断するとビニールパイプで水場が整備されており、唐沢小屋の近いことを教えてくれている。
水場から急斜面を木の根をつかみながらひと登りすると唐沢小屋の前に出た。
小屋は予想していたよりも立派で、最近外壁を新建材で張り替えたようだ。中に入ってみるときれいに掃除が行き届いており、この小屋を利用する登山者のマナーのよさがうかがわれる。左右の座敷と二階のロフト。一階には作り付けのテーブルとベンチまである。冬の利用者の為に二階から出入りができるように外には鉄梯子も用意されている。
窓から小屋の中へ射し込む陽の光が穏やかで、こんな小屋でのんびり一泊したらさぞかし素敵なことだろうなぁと思わずにはいられなかった。
唐沢小屋から女峰山へ最後の登りである。針葉樹の林からガレ場をあえぎながら登って振り返ると小屋の屋根が林の中から見える。頂上直下のこの登りが今回の山行で最も手ごたえがあった。
女峰山の山頂には立派な社があり、左手の最高点へ登って息子と腰をおろし、お菓子などを食べる。雲ひとつない展望が広がっていた。白根山・燧ケ岳などは私でも山容を特定することができた。風がないのでいつまでもこの陽だまりでタバコを吸っていたいくらいだ。
さて下山だが、秋の夕暮れにヘッドランプを灯しながら歩くというのに憧れる。帝釈山を越えて富士見峠経由で下山することに決めて腰をあげる。
息子も山歩きに慣れたなぁと見ていて思う。どんどん歩いていく。女峰山と帝釈山の間は歩きやすい気持ちの良い稜線だ。適度に踏み跡がしっかりしており、途中に小さなクサリ場があったりして箱庭の中を歩いているようだ。
帝釈山の山頂で栃木の小山から来たという二人連れにあった。今日は唐沢小屋に泊まるという。この三連休のど真ん中である明日に用事があるために日帰りしなければならないことが返す返すも残念でならない。
さて、気を取り直して富士見峠へと向かう。この下りは登山道がえぐれており歩きにくい。高度計の標高が下がっていくのを楽しみにして二人で歩く。息子はどんどん下っていく。お母さんに早く会いたくなったのかな?
富士見峠へ降り立つと、太陽は大真名子山の影にかくれてしまい、とたんに寒くなった。峠は昔、林道が通じていたようである。歩きにくいえぐれた登山道から開放されてほっとする。
普段なら長い林道は苦痛に感じるが、落ち葉を踏みしめながら落葉松の黄葉の下を歩いていると、まんざらでもない。息子の手が冷たくなっていたので手袋をつけさせる。
ちょっぴり長く感じた林道だったが息子と「熊が出るぞ」とかフザケていたら、本当に鹿が林道を横切った。息子はびっくりして私に抱きつく。子リスのように小さな体をしばらく抱きしめ続ける。心臓の鼓動がトクトクと私に伝わってくる。
遠くに、近くに鹿の鳴き声が絶え間なく聞こえている。上弦の月がくっきりと夕空に見えた。
17時、車止めのゲートへ到着し秋の山歩きを無事終えることができた。

参加者:賀来素直・賀来素明