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7.「8000mの上と下」ヘルマン・ブール 横川文雄 訳 三笠書房

久しぶりに手にした「8000メートルの上と下」・・・
この分厚い書を手にすると感慨深いものがあります。この本を初めて手にしたのは1977年でした。当時3,000円もしました。現在の貨幣価値で換算したらいくら位なのでしょうか。25年前なので1万円くらいかな?期待にそぐわぬ二段組437ページにも及ぶ大書。しかも文字が小さく、中身がぎっしり詰まっている感触。ちなみに1ページあたりの文字数を勘定してみました。26文字×25行で二段組なので1ページあたり1,300文字。それが437ページあるので、568,100文字。原稿用紙に換算して1,420枚分。
あまりのボリュームに手にしたときに圧倒されます。しかも読み始めのクルト・マイクスによる序文が過剰にウェットで投げ出したくなるのです。
ところがヘルマンブール直筆による本文に入ったとたんに様相は一変します。クライマーの内面の吐露とでも形容すべき共感のうちに本書にぐいぐい引き込まれていく私を感じます。大げさにいえば人生の挫折・屈折をとおしてクライミングを捉えた経験のある者だけが共有できる心情なのかもしれません。
山に対する情熱だけを生きる糧としていた10代後半から20代前半の頃でしたか、山にとりつかれた私の目を覚まさせようと父が私を勘当したのです。
もっとも正確に言うと
「山にいくなら学費は出せん」という父に私は次のように言い放ったのです。
「かまわんよ、学費を出さんでも。そのかわり山にも口を出さんでね」
と私自らが家を飛び出したといのうが真相でしたが・・・。
神をも恐れぬ何たる親不孝者でしょうか。今でも父に心配をかけたことが悔やまれて悔やまれてしかたがありません。
そういった事情もあり、大学の学費と山行費用を日雇土木作業員としてのアルバイトで賄っていた頃の思い出とヘルマンブールが重なっているのです。お恥ずかしい話ですが、とにかくページをめくるたびに涙が流れます。ヘルマンブールの気持ちが痛いようにわかる気がするのです。
さて、「8000mの上と下」の読書感想文の構成を考えねばなりません。どうしましょう。
やはり一つ一つ記述された順に丹念に、一語一句を反芻する、またそれに値する著作物でしょう。
では、そういう構成にすることにして、まずは目次をそのまま掲示して、読後感をつづっていくことにいたしましょう。

山の修行時代
北チロルの山々で
夢の国ドロミーテン
冬季トレーニング
西部アルプスの氷の中で
夢はみたされる
偉大な目標への準備
ナンガ・パルバート
結び
ブロード・ピーク---チョゴリザ

【山の修行時代】
最初の5年以内に決着がつく?
そんなハラハラするような、修行時代の記録です。4歳で母を亡くし「母の姿と、母へのあこがれが、ぼくの人生の伴侶だった」とつづるヘルマン。
継母の洗濯紐をザイル代わりに学友エルンストゥルとフラウ・ヒットに登った時へルマンは13歳だった---13歳つまり中学1年生。なんという無謀。
この章の白眉とも言うべきは「人の死に悟る」という一節です。ヴェッターシュタイン・シャルニッツシュピッツェ南壁「カードゥナー」ルート登攀中に単独登攀者の墜落死を目の当たりにするのです。

ぼくの目には幾度も幾度も、生きた、暖かい血の流れる人間のからだが空中を飛ぶ光景がうかんだ。夜ともなれば夢にまでみるのだった。こうしてぼくは、岩登りというものが危険なものであり得ること、そして、岩登りがこんなにも速やかに人の命に終止符をうち得るものだということを学んだのである。


【北チロルの山々で】