ファミリー登山の実際

6.食料について

登攀倶楽部の仲間と行く怪しげな山の食事は単なるエネルギー補給でしかなく、冬はペミカンにアルファ米を加えたドロドロのオジヤ、夏はインスタントラーメンなどを「山に飯を食いにきたわけではない」と思いながら食べていました。
山をはじめて5〜6年目の血気盛んな頃は、カロリー対重量比で選べばマーガリンなどの油脂が最も優れているとばかりに、ほとんどマーガリンだけで作ったペミカンに砂糖という食料計画で冬合宿に挑んだこともありました。合宿の登攀目的は達成することができたのですが、いくらカロリー対重量比に優れていても、まず食欲が湧かなければどうしようもありませんし、食欲があっても胃腸から吸収されなければ何の意味もないと大不評でした。当時の仲間は「これは料理ではなく吐瀉物(ゲロ)である」といっていました。つまり「食料」というよりも「餌」、「食事」というよりも「給餌」だったんですね。その後六期後輩の中村勇が天才料理長として大抜擢され、その後は多少まともな食事をするようにはなったのですが、さて女房子供になにを食わせるか・・・基本的に「山の食事は給餌である」という考え方を変えていない私にとって頭の痛いところです。

★無洗米の登場

もうほとんどの登山者が使っていると思いますが、無洗米の登場は本当に画期的でした。
第一に米を研ぐ必要がない・・・当たり前ですね。でも沢歩きでもない限り米を研ぐことが山ではできません・・・とはいっても学生時代は研いでいたんですがね。とにかく米を研ぐための水を必要としない!すごいじゃありませんか。
第二に安い・・・アルファ米はまずいくせに高いですね。でもカロリー対重量比で試算してみたらほとんど変わりません。10食分トータルでも100gの差はありません。でも炊飯にかかる時間が違いますから、その分ストーブが消費する燃料の重量はかさむことになります。(消費する燃料を加味した試算はしていません)
第三に旨い・・・普通の白い御飯が炊けるのです。これが女房子供に食べてもらうには決定的なポイントになります。とにか白い御飯はおいしいですね。惣菜などに悩まなくても、わたしは塩昆布だけでおかわり三回できます。子供たちも普段から肉などの「しつこいオカズはいらない」と公言してはばからないほどです。
というような訳で、アルファ米は無洗米に比べて、高くてまずくてカロリー対重量比でもさほど差がないとなれば、アルファ米の優位性は「簡単で消費燃料も少なくてすむ」という点に絞られることになります。
さて、このような無洗米の利点を活かして、私たちは夕食時に 3食分の飯を炊くのです。夕食時に翌日の朝食と翌日の昼食の分まで一緒に炊きます。こうすることにより翌朝の出発までの時間を大幅に短縮することができますし、昼食用の行動食を減らしメニューに悩むこともありません。おにぎりにすれば子供たちも喜んで食べます。腐敗を遅らせるために昼食用のおにぎりは「ユカリ」というフリカケを多用し、薄手のビニール袋にご飯を入れて形を整え、そのままビニール袋の口を結ぶと出来上がりです。
なお、本格的な冬山登山や渓谷遡行などに挑むレベルの場合には、調理時間の短縮や消費燃料の節減などの要素が重要視されるので、アルファ米やフリーズドライ食品などを多用することは、言うまでもありません。

★ゼリー飲料とスポーツドリンク

この二つの食材の利点は胃腸における吸収が良いということです。無理なく血糖値を速やかに上昇させることができるこれらの食材は、今ではわたしたちの登山に欠くことのできないものです。たとえば子供たちは早朝や疲れ切ったときに食欲がなくなることがあります。そのような時にゼリー飲料(商品名:ウィダーインゼリー)を食べさせます。高カロリーの食材はほかにもありますが、ゼリー飲料であれば無理なく食べることができ、胃腸の負担も少なく吸収も早いのです。カロリー対重量比に優れたマーガリンを無理に食べさせることは、かえって非効率だということは容易に想像がつきます。 そして水筒にはスポーツドリンクの粉末を必ず溶かしこんでおきます。休憩時に半ば強制的にこれを飲ませます。知らず知らずのうちに空腹になり疲れてしまうからです。いわゆるシャリバテ対策ですね。固形物を飲み下すほどの食欲がないときでもゼリー飲料とスポーツドリンクは「ポパイのほうれん草」のような強い味方になってくれます。

★駄菓子の効用

子供を楽しい気分にさせるために駄菓子を持っていきます。たとえばプラスチックの容器に入ったラムネ菓子など・・・。シャリバテに気を使う私は、女房子供たちが食べる量に神経を尖らせています。夕食・朝食の量から行動食の摂取量を観察しています。「食べろ」と命令するよりも「わぁうれしい」と喜んで食べてくれることにこしたことはありません。とてもカロリー対重量比ではナンセンスな選択ですが、子供をウキウキさせ楽しい気分にさせることはとても重要です。

★夕食

夕食時に翌日の朝食分・昼食分を含めて米を三食分炊きます。ものすごい量です。
惣菜は頭の痛いところで、子供たちがしつこいオカズはいらないとは言っても、単調なメニューの連続は食欲を減退させます。初日は多少重くても何とかなるので、レトルトの牛ドン・カレーなどを使用します。二日目以降はレトルトですと重量がかさむので、フリーズドライの牛丼・親子丼・マーボー丼などを登山用品店、私の場合はもっぱら津田沼のヨシキスポーツで用意しておきます。最近、好評なのが「マーボー春雨」というやつで、普通のスーパーマーケットで売っています。軽量でインスタントラーメンほどはかさばらずGoodです。山に最適な食料はないかな?とスーパーマーケットを探索するのはとても楽しく、山に行かない土日は毎週のように女房の買い物について行き、食料品売り場をうろうろしています。
夕食を食べ終わりましたら、コッフェルに「ユカリ」等を加えてよく混ぜ、翌日の昼食用のオニギリをビニール袋に入れて作ります。
コッフェルには翌日の朝食用のご飯を残しておき、前夜の内に水を加えておきます。

★朝食

朝食ですが、ここでは初日の登山開始時の食事のことをまず説明します。毎日10時間以上睡眠をとる子供たちにとって、前日の夜に家を出発して未明に登山口に到着する初日は特に食欲がありません。車でアプローチすることがほとんどである我が家のファミリー登山では、往路でコンビニエンスストアへ立ち寄ることができるというメリットを最大限に活かします。女房や私は「牛カルビ弁当」でOKですが、子供たちはオニギリでものどを通りません。コンビニエンスストアで購入した好物のプリンやバナナを食べさせます。それでも早朝は食欲がないので、歩き始めてから30分ほど経過して体が目覚めた頃、あらためてウィダーインゼリーを食べさせます。
二日目以降は前夜のうちに水を加えておいたご飯を利用してオジヤを作ります。おかゆといってもいいかもしれません。子供たちは寝起きということもあって、普通のご飯ではのどを通りません。お茶漬けのようなおかゆのような「オジヤ」を喉に流し込むように食べます。
前夜のうちに水を張っておくというところがポイントで、この方法はコッフェルを洗ってくれる役目も果たしてくれ、食後は犬が舐めたようにきれいさっぱり。すぐにパッキングすることができて効率的です。
出発してから30分程度経過すると体も本格的に目覚め食欲が出てきますので、それから昼食用のオニギリの一部を食べることも少なくありません。

★昼食

昼食は先ほど記述したように、前日の夜に作ったオニギリがメインとなります。昼食だからと特別なことはしません。むしろ行動食とスポーツドリンクを休憩のたびに口に入れ、その延長線上でオニギリを食べるといった具合です。
途中で立ち寄る山小屋の売店や食堂も積極的に利用します。

★その他

このような食事では、食後に口さびしい思いをします。副食としてビーフジャーキーやするめなどを持参します。
テント場はたいがい小屋の近くにありますので、子供たちにはアイスクリームをご馳走したり時には小屋の食堂で食事をしたり、とにかく飽きていやにならないように工夫します。
なお、ラーメンはカロリー対重量比に優れているのですが、子供が好みではないこともありめったに使いません。