2010年 春

西丹沢

檜洞丸から犬越路

2010/05/08

早春の趣がただよう檜洞丸の山頂

ゴールデンウィークが終わると、東京近郊の山々は沢登りのシーズンをむかえる。
が、今回は尾根歩き。
ロープを使うばかりが登山でもなかろう。
地面に吸い込まれていくポタポタと落ちる汗。あたりの景色を見渡す余裕もない。うつむき加減になってゆっくり登り続ける。
顔をあげてふと気づく。あたりの植生が思いのほか高度を稼いでいることを教えてくれる。
そんな山登りも悪くない。

5月8日(土)晴のち曇り

7時過ぎに四街道を出る。遅い出発だったので首都高の渋滞を心配したが、池尻あたりで少し詰まったほかは順調に流れ、9時丁度に西丹沢自然教室に到着した。
初夏の日差しが青葉を透かし、あたりは新緑の真っ盛りである。
今日はツツジ新道を利用して檜洞丸へ登り、犬越路を経由して用木沢沿いの東海自然歩道を下る計画だ。出発が遅い時間なのでひょっとすると用木沢の下りで日が暮れるかもしれない。
入山届を出し、妻と二人でゆっくりと歩き始める。
ゴーラ沢の出合までの緩やかな林の中の道。新緑を透過した木漏れ日を浴びながら歩いていく。
ゴーラ沢の出合で早めの昼食。河原にウレタンマットを敷いて、ゴーラ沢の水を汲んで湯を沸かす。味噌汁の用意が整いお弁当を広げる。朝の忙しい炊事の合間に妻が作ってくれた弁当。なんという美味しさ。
ツツジ新道はゴーラ沢出合から本格的な登りとなる。
一歩一歩、地面を踏みしめるようにして、息が上がらないようにゆっくりゆっくり、しかし立ち止まらず、コツコツと登る。
標高があがるにつれて、初夏から春へと季節が逆行するように変化していく。
展望園地で一休みした後も急坂が続く。ブナの葉も下の方では青葉が茂っていたが、この辺では漸く芽吹き始めたというような状態である。
だんだんきつくなってきて歩行速度も落ちてきた。ガスが湧き始め、視界を閉ざす。整備された木の階段をいくつか登っていくと石棚山稜の稜線に出た。晴れていれば富士山が見えるはずだが、ガスに覆われて何も見えない。あたりは寒々とした冬木立ちでコバイケイ草だけが青々と茂っている。コバイケイ草は有毒植物なので鹿の食害にあうこともなく、こうして繁茂することを許されているのだろう。
檜洞丸は広々とした山頂で、ガスの中に鎮座まします小さな祠。思わず手を合わせたくなる。
山頂にしつらえたいくつかのテーブルの一つで休む。
寒い。
カロリーメイトを一箱づつ食べ、水を飲んでいると神ノ川のヤタ尾根から登ってきたという男性が話しかけてきた。お互いこれからのコースを手短に伝えあう。彼は蛭ケ岳まで行きたいが、ガスが湧いて展望が望めないことから思案げ。
私たちもできれば明るいうちに下山したいので腰を上げ犬越路へと向かった。
これから私たち夫婦がたどる稜線は、長男素直が成田高校山岳部の山行として昨年の三月にたどった道でもある。仲の良い同期4人でツツジ新道から入山し雪の中を檜洞丸を経て、小笄を越えたところで日没。果てしなく続くと思われる夜の雪の山道をお互い励ましあいながら歩き続け、精根尽き果てたと思われるころ暗闇の中から突然、犬越路避難小屋が現れた。そのときの喜びはたとえようもなかった。北アルプスで行う夏山合宿の体験を越えるほどに感動したと熱く語っていたことを思い出す。
その同じ稜線にガスが流れる。本格的な鎖場と鉄梯子がいくつか続く。鎖場と鎖場の間は穏やかな笹原の中に、ブナなどの落葉広葉樹が点在する好ましい稜線だ。この時期は冬木立ちの状態なので、くもり空でガスが流れているのにもかかわらず明るい。
犬越路まで長く感じた。2時間たっぷり歩いた。
黄昏時の曇天の下で、冷たい風に吹かれながら小屋は建っていた。
避難小屋に入ってみる。誰もいない小屋の中はがらんとしていた。数年前に建て替えられたこの小屋は、内部が無垢材で出来ており、木の香漂うようだ。積雪期の夜道を歩いてきてこの小屋にたどり着いた時の素直たち高校生の安堵感を想像すると、相当なものがあっただろう。
私たち夫婦は小屋の外に出た。震え上がるほどに風が冷たい。
西丹沢自然教室まであと一時間半だ。薄暗くなり始めた山道を足早に下り始めた。

西丹沢自然教室に戻ってきたのは18時10分。
いつもの通り、山北駅前の「さくらの湯」で冷え切った体を温め、一時間半ほどで帰宅することができた。

走行距離293km


四街道 7:10
西丹沢自然教室 9:00--9:28
ゴーラ沢出合 10:32--11:06
展望園地 12:06--12:18
石棚山稜 13:40
檜洞丸 14:00--14:15
犬越路 16:22--16:40
西丹沢自然教室 18:10
さくらの湯 18:40--19:30
四街道 21:05


初夏の新緑



ゴーラ沢を渡る



ツツジ



石棚山稜へはもう少し



大笄の鎖場に咲く花「コイワザクラ」



稜線は冬木立である



本格的な鎖場



犬越路避難小屋