2009年 夏

西丹沢 中川川

地獄棚沢

2009/09/06

地獄棚の上にはこのような連瀑帯が待っている

昨年、滝郷沢左俣とミズヒ沢という沢を登ったが、ひどい沢だった。ヒルがいて岩はボロボロで倒木がひどく、登っていても不愉快極まりない。こんな沢には二度と巡り合いたくないと遡行ガイドブックなどの記述を参考にして沢を選ぶ。だが遡行ガイドの評価はあてにならないことも多く実際に登ってみなければわからない。
今回選んだのは地獄棚沢。地獄棚自体はボロ滝だが、それを越えると「花崗岩のナメ滝が連続する」と遡行ガイドには紹介されている。地獄棚を越えるのが厄介だが、花崗岩のナメ滝が連続するというのであれば、行ってみようかという気にもなる。
よし、行こう!
はたして結果は如何に。

9月6日(土)晴れ

今年の夏で最も天候に恵まれた一日になるかもしれない、というほど天気が良い。
いつもの通り、大滝沢沿いの林道に車を入れ、峰山橋で駐車。
東海自然歩道を一軒屋避難小屋方面へと登っていく。晴れてはいるが、湿度が低くてとても気持ちが良い。
あと5分で一軒屋避難小屋というところで、地獄棚沢の出合へ向かう踏み跡へ入る。この踏み跡は尾根筋につけられており、沢の底へ向かって下降すると思っていたので意外な感じがした。尾根筋の左右は急峻な崖になっていることを知っているので、慎重に進む。やがて尾根は急下降して沢へと下っていく。下降していくと木の間から地獄棚と呼ばれる大きな滝が見える。相当な落差があるようでドキドキする。このアプローチは足元が滑りやすく、かなり緊張した下降だった。
下りついた沢の底は、目の前に地獄棚がそびえる場所だった。意外だったのは滝の下に人がいたことだ。その人はやがて雨棚方面へ入って行き、間もなく戻ってきた。どうやら途中の5m滝を登れずに引き返してきたようだ。おそらく滝見物に来たのであろう。
私たちもせっかくここまで来たのだからと雨棚を見学に行く。雨棚は意外にも傾斜が緩く穏やかな滝だった。
地獄棚の下に戻ると滝見物の人がさらに増え、数人がたむろしていた。地獄棚と雨棚という丹沢でも有数の滝が、一般登山客にとってちょっぴり近付き難いロケーションに存在しているということ、それが魅力なのであろう。三脚を出して撮影しようとしている人もいる。
岩が脆いことを考えると地獄棚の正面の直登は論外で、右のブッシュを巻くことになるのだが、巻き道自体が非常に困難だ。今日は50mロープをザックに入れてきたが、それはこの巻き道の為だけに用意したのだ。
準備万端整えてノーザイルで登り始める。傾斜の緩い部分を20mほど登ってからロープを出す。妻にビレイを頼んで、登り始める。
のっけから垂直のブッシュ登攀である。部分的にはオーバーハングしている。しかもブッシュが途切れる部分があって心臓に良くない。もちろん、これよりもはるかに難しい草付きの登攀を一ノ倉沢や奥鐘山などの5級ルートで何度も経験しているが、今日は妻と二人でのんびり登りたくてやってきているのだ。勘弁してほしいと思う。
それでも、ところどころに太い灌木があってこれにランニングビレイがとれるので、最低限の安全は確保されているのが救いだ。
しばらく登っていくと地獄棚の落ち口と同じ高さまで登ってきたことが感じられ、落ち口の方へトラバースしていく。左へとトラバースしていくと真下に落ち口が見える、急峻な斜面を下って、落ち口に到着。
ビレイの準備が整ったので、合図に笛を吹く。ルートが長く、廻り込むように登ってきているので声が通りにくい上に滝の音でかき消される。笛がなければ意思の疎通は困難だろう。
妻も順調に登ってきたが、落ち口への下りでの部分が確保されていない状態になるので、太い灌木のところでロワーダウンとなるように指示すると、指示通りにロワーダウンしてきた。妻も経験を積んできたから、置かれている状況を理解した上で、このような処理もできるようになったのだ。昔はこうはいかなかった。
落ち口に妻と二人でやっと揃うことができた。
妻が言うには、途中でロープが足りなくなり、セルフビレイの位置を変えたという。つまり、下部の緩傾斜部分20mを含めるとこの巻き道はロープスケール70mを越えていることになる。「こりゃすげーや」と感心する。
落ち口から下を覗き込みたい誘惑を振り切り、上流を見上げると、見事なまでに滝が連続している。
これは来た甲斐があったというものだ。さっそく登り始める。
ただし花崗岩のナメ滝とはいっても、傾斜が強く、高さもあるので安易な登攀は禁物だ。一つ一つの滝を慎重に登り、上から妻をビレイする。都合四つの滝を登り終えると地獄棚沢は二股となる。遡行ガイドによれば右を登れば大滝峠。左を登れば急峻なガレを経て屏風岩山に至るという。
ガレを登りたくない私たちは迷わず右へと進む。すぐに15mほどの滝が左から入り、これを登るらしい。
と思って滝を見ていたら、妻が言う。
「あそこに階段があるよ」
見ると、確かに丸太で作られた階段がすぐそこに見える。山仕事用の作業道のようだ。
簡単に上まで行けるかもしれないと思って、階段まで近付く。よく見るとかなり整備された道である。階段を登る。そこからは右手の方向へと道は水平に続いている。これをたどってみようということになり、歩き始めた。
東海自然歩道並みの整備された道である。どんどん先へと進む。しばらく行くと見覚えのある場所に出た。
それは一軒屋避難小屋。
なんて楽チンなんだろう。やったぁなどと二人で喜ぶ。ん?でも山登りに来たんだよね。とも思ったがすぐに忘れてはしゃぐ。
小屋の前のステタロー沢で泥だらけの沢靴を洗ってテーブルに干す。そして湯を沸かし昼食。なんて楽しいんだろう。
一軒屋避難小屋から峰山橋まではせいぜい40分。さわやかな木漏れ日を浴びながらルンルン気分で妻と歩いた。ただし、ちょっぴり歩き足りないような気持ちがしたのは妻も同様だったらしい。来週はもう少しまじめに歩こうと思った。
「さくらの湯」で汗を流し家路についた。


峰山橋 7:19
地獄棚への下降分岐点 8:10
地獄棚下 8:39-9:49
地獄棚上 10:15-10:47
連瀑帯上 11:29
二俣 11:31
一軒屋避難小屋 11:53-12:45
峰山橋 13:24


雨棚



地獄棚



連瀑帯



天気の良い日の
シャワークライミングは気持ちが良い



この滝は水流右を登る
もちろん妻をビレイ

連瀑帯最後の滝

ここでロープを投げおろし妻をビレイした

一軒屋避難小屋を掃除する妻