2008年 秋

丹沢 寄沢

滝郷沢 左俣

2008/09/27

岩がもろく、倒木も少なくない

9月に入ってからまったく山へ行けなかった。そんな月末の金曜日の夜。天気予報を見ていると太平洋高気圧が関東地方をおおい、明日土曜日は秋晴れになるという。
いてもたってもいられず妻を誘うとOKの返事。
千葉から手軽に行くとなると一番は丹沢である。距離が130km前後で、高速道路でアプローチできる。朝、6時前に首都高を通過できれば渋滞にも巻き込まれず、2時間で登山口へ到着することも可能だ。
だが、丹沢の沢もお手軽どころは登りつくしてしまって、登り残しているのは手間のかかる沢や崩れかけたボロ沢が多い。実際、6月に訪れたミズヒ沢などはその典型で、ひどいボロ沢だった。
今回選択した滝郷沢は、寄(やどりき)周辺では最も人気のある沢と遡行ガイドブックの解説文に記述されている。しかしながら行ってみた実感は、つまらない沢だったというのが率直な感想である。滝郷沢を構成する岩はとても脆く、沢のいたるところで崩壊箇所があり、それに伴って倒木が谷を埋めている。とてもお勧めできる沢ではなかった。
ところで滝郷沢を登りつめたところにある檜岳という山。檜岳はヒノキダッカと読むが、この山は人影がまったくなかったこともあって、なかなか良い雰囲気だった。檜岳山稜を秦野峠へと下山したが、相模湾を見ながらたどるその道も踏み跡が不明瞭で、これがまた興味をそそらせてくれた。暗くなった秋の林道歩きも素敵で、土曜日の日帰り山行だったが私は十分に楽しかった。

9月27日(土)曇り

いつも通り、妻は子供たちの朝食を作る。そして6時頃に出発。遅い出発だったが首都高の渋滞はまだ始まっておらず、海老名SAで朝食。高速を降りてからコンビニへ立ち寄るなどして8時過ぎに「やどりき水源林」に到着した。橋を渡った先で、玄倉へ向かう秦野林道はゲートで通行止め。そのゲートの左側に駐車場がある。
身支度を整え、8時40分に歩き始める。「やどりき水源林」の中を通って集会棟の先から河原に下りる。その対岸からそそいでいる小さな流れが滝郷沢である。F1は河原からは直視できない。出合から数歩踏み込んでみると大きな滝が落ちているのが見える。間違いない、滝郷沢である。F1は左岸(右側)を巻く。踏み跡があるような、ないようなはっきりしない状態である。F1の落ち口で沢底へ降り立った。沢はその上で鉄パイプの橋で遊歩道と交差する。
そのすぐ上に二段になって落ちるF2。古い虎ロープがかかる右の壁を登る。少し悪いので妻をビレイ。さらに5分ほどいくとF3。これも二段になっている。左側を簡単に登れる。そのすぐ上に堰堤がある。堰堤は左側を越える。
堰堤の上は広い河原になっており、ここでコーヒータイム。ややわかりづらいがここは二股になっている。30分以上休んで先へ進む。
この河原から先で、沢は極端に荒れはじめる。倒木と尖った岩が散乱している沢をさらに5分ほど遡るとF4だ。遡行ガイドブックには水流の右側をシャワークライミングできるとあるが、悪相である。右を高巻く。
沢の荒れ方はますますひどくなっていく。倒木が折り重なって汚らしい。そして周辺の岩はボロボロである。
F5が見える。その手前で昼飯にする。湯を沸かしカップ麺を食べた。一時間以上ものんびりする。
F5は右の壁を登ることができる。易しいが高さがあるので念のために妻をビレイする。
この滝の上で水はなくなり、沢はボロボロのガレ場となった。
奥に涸れ滝が見える。F6であろうか。高さ15m。登りはじめたが落ち口の手前2mが悪い。岩も脆いので突っ込むのは危険と判断し、12mのクライムダウンで下に戻る。右側を大きく巻く。
このすぐ先にも涸れ滝が続く。F7であろう。これは易しかった。連続してF8。正面にも残置スリングが見えるが、左側のクラックが通常のラインであろう。ここは妻にビレイしてもらう。ランナーが二箇所取れる。
沢底はガレ場なので用心しながら登っていく。
また滝である。もういいだろうと考えここで遡行を打ち切り、右手の尾根に這い上がる。かなりの急傾斜だったが、下草がないので登りやすい。斜面を登っていくとすぐに杉の植林地帯になった。バテ始めた妻を待ちながら30分ほど登ると、林業作業用の道に出た。これをたどって斜面をジグザグに登っていく。作業道は途中で右方向へと大きく斜面をトラバースし始めた。こんなにトラバースしてよいのだろうかと思うほどトラバースして、再び上昇していく。かなり遠回りをしているようだ。
完璧なバテバテモードに入ってしまった妻を先にしたり後にしたりしながらゆっくりと登っていく。時計は15時半をさしている。檜岳から愛車の待つ駐車場まで下山には3時間を要する。9月下旬のこの時季、真っ暗になるのは17時50分頃だから、夜道の下山がほぼ間違いないところとなった。
そして私は思わず禁句を発してしまった。
「お母さん、あんまりゆっくり登っていると日が暮れちゃうよ」
言ったあとでしまったと思ったがもう遅かった。
妻はかんかんになって怒った。
「私がバテちゃうの知ってるでしょ。こんなところにつれてきたお父さんが悪い!!」
「いやいや、ヘッドランプ持ってるから、夜になってもまったく平気だよ。明日は日曜日だし、ゆっくり帰れば首都高の渋滞もおわってるもんね」
などととりつくろう私。
そして、休憩して妻にゼリー飲料を飲ませる。そして妻のザックの中身をすべて私のザックに移す。
しばらくして檜岳から西へ延びる顕著な尾根上にでた。作業道は更にトラバースして檜岳から遠ざかっていくようなので、この尾根の背をまっすぐ山頂へと向かっていく。下草がないのでどこを登っても楽だ。
ほんの少しで檜岳の山頂に到着した。三角点があった。少しはなれたところに「檜岳」の標柱が建っている。16時半だが曇り空ということもあって薄暗く感じる。水を少し飲んだだけで下山を開始する。30分度下った伊勢沢の頭でヘッドランプを出す。ところが妻のザックの中にヘッドランプがない。どうやら忘れたようだ。私のヘッドランプ一つしかないがし方がない。1086mピークで暗くなった。もともと踏み跡が薄いところがあったが、暗闇で踏み跡を見失ってしまった。左右にトラバースしながら探したが見つからない。し方がないので勘で下る。一度軌道修正をしたが林道へ到着することができた。
時計を見ると18時半。舗装された林道なので歩きやすい。
ヘッドランプが一つしかないので不安がる妻は子供のように私の手を握る。お手てをつないで、おしゃべりをしながら夜の林道を歩く。5kmほどの林道を50分ほどで歩き通し無事、愛車の元へ帰り着くことができた。

参考資料:山と渓谷社1995年発行「丹沢の谷110」



F1



・・・


岩はもろく、手を掛けただけで崩れる



右を登る



涸れ滝



源流部



檜岳



江ノ島