2008/06/01
F1を越えて木漏れ日の中、ナメを行く
素直が成田高校山岳部の山行として沢登りに行くという。昨年は葛葉川本谷だったが、今年はマスキ嵐沢に行きたいという。
葛葉川よりもマスキ嵐沢の方が美しく登って楽しい。遡行時間も短時間で、源流部のツメ部分も問題がない。入門者が登るにはお勧めの沢だ。
ただし下山地点が西丹沢自然教室と入山地点とは少し離れている。大滝沢沿いの林道の駐車スペースに戻ってくるような下降路があれば最良だが・・・と、地図をみていたら権現山から南に延びている尾根の末端がちょうど林道の駐車スペースに達している。この尾根を下降路に使えれば申し分ない。ただし登山道はなく、危険箇所があったり、藪で歩行困難かもしれない。事前の下調べをしておいた方がいいだろう。
じゃぁ今週の日曜日に行ってみよう、ということになった。
妻と素直の三人で4時40分四街道を出る。
昨日は冷たい雨の降る寒い土曜日だったが今日は天候も回復して絶好の沢登り日和になりそうだ。レインボーブリッジから見る高層ビル群との間にある大気に透明感を感じてそう思った。
箒沢集落の手前にある大滝キャンプ場から林道に入って取水口の堰がある広場に6時半に車を止めた。
今日の予定は、まず素直と私で権現山とこの地点をつなぐ尾根(仮称:南尾根)を使用して権現山を往復。その後、あらためて妻を伴って三人でマスキ嵐沢を遡行し権現山に立ち、南尾根を下降しようというものだ。標高差600mなので二往復で1200mと登り応えのある一日になりそうだ。
まずは権現山南尾根の踏査である。妻を車に残し、素直と二人で6時45分踏査に出発。登山道はないので地図とコンパスと高度計を頼りに登っていく。幸い樹林の中は笹ヤブなどの下草がまったく繁茂していないので非常に歩きやすい。登りはじめて尾根の背に出るまでの急斜面に少し戸惑ったが、あとは順調に高度を上げることができた。この尾根を利用する人がまれにあるようで目印となる赤布やテープが所々にある。それらに追従するように私たちも赤いビニールテープを巻きつけていく。下山時に視認しやすいような位置に目印をつけるのはちょっぴり洞察力がいる。
標高788mのピークまで1時間10分。さらに1時間10分で権現山の山頂台地の一角に到着。鹿の食害から植物を守るための柵が設置されている。柵に沿って右へ回り込むと薄い踏み跡が権現山の山頂へと続いている。山頂は広大な平坦地で、ブナやクヌギなどの落葉樹の林になっている。落ち葉のクッションの効いた下地は歩いていても気持ちがいい。山頂部は南に向かって展望が開け、丹沢湖や中川温泉がミニチュアのように見える。水を飲んで一休みしすぐに下降に移る。
尾根は下る時に分岐点を間違えやすい。登っている時には気がつかなかったが尾根の形状に誘われてあらぬ方向へ下る恐れのある箇所がいくつかあったので、テープの目印を追加しながら下っていく。1時間20分で車まで戻ることができた。
車に到着すると妻は木陰の草地にウレタンマットを敷いてそれに腰をおろして文庫本を読んでいた。ちょうど昼頃の強い日差しを若葉がさえぎって木漏れ日が妻を照らしていた。さわやかな大気があたりを包み、なんとものんびりした光景だ。こんな休日をいつもすごしたいものだ。
1時間ほど時間をとって昼食を済ませ、妻を加えた三人で11時40分にマスキ嵐沢に向かって出発。20分ほどでマスキ嵐沢出合に到着した。
遡行図をヘルメットのヘッドランプ用ストラップにはさみ、今日の遡行のリーダー役である素直を先頭にして入渓する。
新緑の木漏れ日に水が光る。
「先週のに比べるといい沢だ」と妻が盛んに言う。よほど先週のキウハ沢に懲りたらしい。
途中でコーヒーを飲んでゆっくり休む。
ヤマビルもいないし天気もいい。そして渓は明るく美しい。一つの滝にルートを替えて三度登るなど十分にチェックしながら遡行していく。
結局、顕著な滝はその数11個。
F1からF9までは数分間隔で滝が連続する。F9を過ぎるとF10までやや間隔があって20分から30分程度登ると、5mの涸れ滝であるF10が右手から流れ込む小さな二俣(930m)に到着した。この二俣ではすでに水流は消えようとしており、一方で右に見えるF10には水流はない。小さな水溜りで渓流シューズを洗い、運動靴に履き替えた。
二俣から目の前に見える階段状のF10を越えるとすぐ上に10mの涸れ滝F11がある。F11を巻いて上に出ると最後のツメ。砂礫の斜面で落石の危険もない。稜線はすぐそこに見える。F11の落ち口から稜線までは15分ほどでたどり着くことができた。
稜線は権現山と西沢出合を結ぶ登山道となっておりちょうど16時だった。左へ行けば西沢出合の西丹沢自然教室へと1時間ほどで下ることができる。
権現山は右である。はっきりした尾根の背の道をたどり1020mのピークを越え15分ほど辛抱強く登っていくと本日二度目の訪問となる権現山の山頂に到着。
ふかふかの落ち葉のじゅうたんに銀マットを敷いて腰を下ろす。
小さなヤカンで湯を沸かし、チタンマグカップにドリップコーヒーを淹れ、いつもの通りビスケット。
いいところだなぁという気持ちが長居をさせる。30分ほどくつろいでから立ち上がり、権現山南尾根の下降を始める。追加した目印のテープのおかげで迷うことなく一時間で車まで戻ることができた。
着替えを済ませ、車に乗り込んで走り始めた時
「この沢なら私の自力で登れるかもしれない」と妻が言った。
私はとても嬉しかった。
いつもの通り、渋沢駅近くのファミレスで食事をして家路についた。
峰山橋取水堰 | 11:40 |
マスキ嵐沢入渓点 | 11:59--12:16 |
F1 | 12:19 |
F2 | 12:23--12:35 |
F3 | 12:38--13:08 |
F4 | 13:11--13:17 |
F5 | 13:21--13:46 |
F6 | 13:48--14:01 |
F7 | 14:07 |
F8 | 14:10--14:23 |
F9 | 14:25--14:29 |
休憩 | 14:23--14:57 |
チョックストーン | 14:59 |
二俣 | 15:16--15:29 |
F10 | 15:30 |
F11 | 15:33--42 |
稜線 | 15:58 |
権現山山頂 | 16:16--16:41 |
峰山橋取水堰 | 17:45 |
F1 入渓点から3分で出会う最初の滝である この滝を越えると3分ほど美しいナメが続く ナメの途中にはナメ滝として扱っても良いものがいくつかあった |
F2 F1を越えてから3分ほどナメを登るとこの滝に到着 水流の中は苔が洗い流されているので フリクションが効いて登りやすい |
F2から更に3分登ると右手から巨岩が谷をおおう 巨岩の下は岩小舎として利用できそうだ 前方にF3が見える F3からF8まで切れ目なく滝が連続する それはまるで一つの多段の滝のようでもある |
F3 巨岩の奥にF3がある。妻が登る正面直上は難しい 妻が右足を置くスタンスから 右へトラバースして水流沿いに登るのが得策 滝の手前にある巨岩の隙間から右手を容易に巻くことも出来る 落ち口にステンレスアンカーがある |
F4 F3がら2分ほど登るとF4がある 落ち口の流木が確保支点に利用できる |
F5 F4から4分登るとF5だ。2段でくの字15mのスラブ滝 一段目は易しいが二段目は苔でヌルヌルするので要注意 傾斜はゆるいが高さがある 落ち口にハンガーボルトがある |
F6 F5のすぐ上にあるF6 ガバホールドの連続だが、傾斜が強く高さがあるので要注意 落ち口にステンレスアンカーあり |
F7 多段の滝のように次々と滝が連続する この滝は水流の右を登る 階段状で易しい |
F8 F7のすぐ上にF8 右の窪地を登る 最後の数歩に要注意 |
F9 F8から2分でF9 左からバンドを右上して水流沿いに登ることも出来るが 写真のラインがベストである この滝を越えるとしばらく冗長な遡行が続く |
チョックストーン F9から20分で二俣(840m) 左俣にこのチョックストーンが見える 左へ入る |
チョックストーンから7分ほどで顕著な二俣(875m) ケルンがある 右へ入る |
F10 チョックストーンから5分 水も消えかけたころに小さな二俣(930m)に到着 この二俣から右の支流にF10が見える 階段状で易しい |
F11 F10の直後にF11 この滝が最後の滝である 右のザレを簡単に巻くことが出来るが 落ち口へのトラバースの一歩に注意 落ち口にステンレスアンカーあり |
最後のツメ 落石の危険は少ないから忠実に谷底を登る 15分で稜線だ |
本日、二度目の権現山山頂 |
権現山南尾根(仮称)