2008年 初夏

西丹沢 中川川

室窪沢(モロクボ沢)

2008/05/18

源流部も近いZ状に流下するナメ滝

花崗岩の沢には美しいものが多い。黒部川上ノ廊下や赤木沢、さらには甲斐駒ケ岳周辺の沢、そして関東近郊では笛吹川東沢周辺、あるいは那須の井戸沢である。
そして東都の岳人にとって最も身近な花崗岩エリアといえば西丹沢であろう。
玄倉川から中川川一帯に広がる花崗岩エリアには名の知られた素晴らしい沢がずらりと並ぶ。モロクボ沢(室窪沢)はその中の一本である。同角沢や小川谷ほど有名ではないが、美しい花崗岩の滝はナメ状でエメラルドグリーンの釜を擁しているものが多く、大滝を除いておのおの登攀は容易で快適である。また、源流部の苔のじゅうたんも美しい。新緑のトンネルの中をふかふかの苔の感触を楽しみながら歩いていると、まるで「ししがみの森」にでも迷い込んだかのようだ。

5月18日(日)曇り時々晴れ

金曜日の夜に札幌出張から帰ってきて、妻に日曜日の山登りを提案すると「うん行こうか」との返事。ワクワクしながら土曜日を準備で過ごし、日曜日を待つ。
日曜日、妻は洗濯してベランダに干す。それが終わるのを待って5時40分、四街道の自宅を出る。首都高は池尻から用賀まで片側一車線規制であったが渋滞なしで、都内を横断することができた。
8時に西丹沢自然教室駐車場に到着。駐車場は満車で路肩も車であふれている。何とか隙間を見つけて駐車。自然教室に登山届けを提出してから中川川に沿って林道を歩き始めた。
川に沿ってオートキャンプ場があって、土日を利用して家族連れがつかの間のアウトドアを楽しんでいる。けれども狭い敷地にひしめきあったバンガローはまるで団地のようだ。街ではマンションに住み、キャンプ場でも団地のようなバンガローに泊まらざるをえないとは、気の毒な感じがしないでもない。
林道を歩きながらそんなことを妻に話しかけていると、妻が言う。
「うちだって、子供達が小さかった頃は2LDKのアパートに住んで、廻り目平のバンガローに泊まっていたでしょ」
という。
そうだったなぁと思い直した。
犬越路への分岐点の先で頑丈なゲートがあり、これより先は車の進入は出来ない。
45分歩いてモロクボ沢出合の白石沢キャンプ場跡に到着。このキャンプ場はすでに閉鎖されており「つわものどもが夢のあと」という状態だが、樹林の中に芝生のような草地があってなかなか気持ちの良いところだ。
腹ごしらえをして、沢したくを整える。鉄橋を渡って、川沿いの踏み跡をたどっていくといくつかの堰堤を労せずして越えることができる。沢に降り立ったあとも左右いずれかに踏み跡があるので、丹念にこれを拾いながら歩くと行程がはかどる。
まもなく前方に大きな滝が現れた。度肝を抜かれるような迫力ある滝である。これがモロクボ沢の大滝で落差は30mほどもある堂々たる瀑布である。滝つぼはエメラルドグリーンの釜となって周囲には水煙が立ち込めている。以前、滝つぼの中から白骨遺体が発見されたこともあるという滝つぼにしばし見入る。
巻き道は滝の左手の凹角。巻き道だけれど道ではなく三級程度のクライミングが必要。易しいが万が一落ちた時の危険度が高いのでロープを出して妻をビレイ。登る対象としてはチムニー状などを呈しており結構面白い。
大滝の上にもすぐに滝が続くが、次々と連続するので一つ一つを覚えてはいられない。滝と滝の間は花崗岩のナメがひろがり、ある時は腰まで浸かって釜を渡りスラブを登り、またある時は濡れるのを避けんがために微妙なヘツリをまじえながら次々と越えていく。
傾斜のゆるいぬめった滝を越えると古い堰堤がある。この堰堤から15分ほどゴーロ地帯を歩くと水晶沢の出合に到着。モロクボ沢出合からすでに1時間15分が経過していた。
ザックを下ろし、バーナーに火をつけて湯を沸かす。それぞれの滝も易しく快適で、ゆっくりしたペースなので妻も「息が切れない」とご機嫌だ。ゆっくりとドリップコーヒーを飲みながら食べるビスケットはとても美味しく感じる。
ここから顕著な滝は姿を消し、ゴーロにナメが混在してゆるく登っていく。
S字状のナメ滝を越えると顕著な二股。「白山書房:東京周辺の沢」の記述どおり左を選択。
少し登ったところで一旦伏流となる。再び二股。ここも左を選択。
傾斜が一段と増してグングン高度を上げていく。しばらくすると大きな岩が谷を埋め始めた。苔むした段差を越えるのが少々億劫に感じ左手の小さな尾根に取り付く。
笹藪まじりの急斜面を強引に登っていく。妻にとってはちょっときつかったようで、肩で息をしながら登ってくる。
しばらく笹を掻き分けて尾根の背をたどっていくと、畦ケ丸山頂から100mほど「善六のタワ」よりの登山道に出た。かなりの急登だったのでしばらく休ませてくれと妻が言う。
落ち葉のじゅうたんに腰を下ろし、休憩だ。水を飲み、お菓子を食べる。白いつつじとピンクのつつじが稜線を飾るように咲いている。
畦ケ丸まではほんの少し。山頂は樹木が茂って展望はない。写真を数枚とって畦ケ丸避難小屋へ立ち寄った。
畦ケ丸避難小屋には誰もいなかった。中には見たこともないような大きな薪ストーブがあって、土間はタイル張り。きれいな小屋だ。担いできた水を沸かし、カップ麺を作って食べる。とても美味しく感じる。小屋に置いてあるノートを読んだ。
14時半に下山開始。つつじの咲く尾根道を下っていく。歩きやすい道だ。善六のタワを確認できないまま、西沢へと道は急下降していく。本棚沢、下棚沢を横切り、少々長く感じる西沢沿いの道をゆっくりと歩いていくと出発地点である西丹沢自然教室のつり橋に到着した。時計を見ると16時15分。
ずいぶんがんばったねと妻と労をねぎらいあった。


西丹沢自然教室 8:15
白石沢キャンプ場跡 8:55--9:30
大滝下 9:55
大滝上 10:10
F4 10:20
F5 10:30
最終堰堤 10:35
Z状ナメ滝 11:45
登山道 13:35--13:45
畦が丸山頂 13:50
避難小屋 13:55--14:30
西丹沢自然教室 16:15


大滝



たぶんF3かな



釜は白い砂に埋められ深くない
自然条件のちょっとしたサジ加減で
堆積した砂が一掃されると深い釜が出現するのかも?



釜を泳ぐも良し、ヘツルも良し



堰堤前のF4の釜を渡る



F4はヌルミが強く、慎重に行く



最源流部も近い

善六のタワへの登山道をゴヨウツツジ(シロヤシオ)が飾る

本遡行の二ヵ月後、2008年7月18日大滝にて単独登山者(49歳)の死亡事故が発生しております。