2008年 春

奥秩父

乾徳山

2008/04/12

乾徳山を背にして扇平から下る

今週末こそ山へ行きたいと思っていた。
しかるに敦子は土曜日も勤務、素直も土曜日は授業日となり、朋子はパン屋のバイト。妻も忙しくて行けないという。今週山に行けないとなると三週連続で山へ行かないことになる。
仕方がない一人でどこかへ行こうか・・・。
ところが金曜日の夜、会社から帰宅して肩を落としている私を見かねたのか妻が言う。
「明日、子供たちのお弁当を作ってからなら山に行ってもいいよ」
「え、・・・本当?」と喜ぶ私。
で、どこへ行こう。
先週の細田さん情報によれば今週末、甲府盆地は桃の満開だという。そうだ久しぶりに乾徳山などはどうだろうか。
乾徳山には少年の頃の思い出がある。
高校1年の3月に卒業生送別山行として乾徳山から黒金山まで縦走した。3月の奥秩父は年間で最も雪の深い時期で、重いキスリングを背にして腿まで雪に埋まりながら歩いた。初めての雪山だった。
その時の印象が強くて翌年の2月にも友人と二人で再度登った。このときは国師ケ原まで6人用のウィンパー型冬天を担ぎ上げ二泊した。ビニールパイプの内フレームに、ジュラルミンの合掌ポール。しかしながら猛烈な寒気で一睡もできなかった。それでもカメラを向けられると門田のピッケルを持ってポーズをとって喜んでいる少年の私がいた。
あの国師ケ原は、どのようなたたずまいで春をむかえているのだろうか。

4月12日(土)曇り

妻が子供たちの弁当を作り皿洗いを終え、四街道を出発できたのは8時過ぎ。
案の定、中央高速は稲城から相模湖まで35kmの渋滞。塩山から笛吹川沿いの国道を北上する。甲府盆地では桃の花が満開で春真っ盛りだが、走るにつれ季節は冬へと逆行していく。
時間短縮のために大平牧場まで車で向かう。登山口の大平牧場手前の林道に到着したのは13時だった。
標高1300m。
あたりは雪こそないものの冬枯れの景色が広がっている。あいにく路肩補修工事中で大平牧場の手前1kmほどの路肩に駐車せざるを得ない。午前中までは陽も差し込んでいたが、すっかり雲に覆われてしまった。空を見上げていたらぽつんと雨粒がおでこに当たった。
落葉松林を背景にして枯れた牧草地に建つ廃屋と打ち捨てられた車。まるで北海道の寒村にありそうな風景。
ここから道標にしたがって斜面を登る。
待ちに待った3週間ぶりの山歩きなので、私は浮き立つ心を抑えることができない。草原に放った犬のように私は走るようにしてどんどん登っていく。
しばらく登って、妻が追いつくまで待つ。待っている間でも周辺を走り回りたいような気分だ。そんなことを繰り返しながら林道を幾度か横切り道満尾根の尾根筋を登っていく。平坦で歩きやすい尾根筋を登っていくと雪が現れ始めた。扇平の端っこで国師ケ原からの道と合流。ここには目印となる月見岩と名づけられた大きな岩があって、周辺は広い草原となっている。
鉛色の空の下にもっこりとした針葉樹林の塊があって、樹林の左肩から岩峰が顔をのぞかせている。乾徳山の山頂はあの岩峰の向こうだ。
月見岩から少し登ると小さな平坦地の扇平に到着。おじさん数人が成吉思汗をしていた。
ここから道は針葉樹林の中に入って、雪は更に多くなり、ぬかるみに足を取られないように慎重に登っていく。風も冷たくなって、長袖のシャツを重ね着する。
扇平から見える岩峰の基部にやってきた。順層の瓦のようなガバホールドで越え、再び樹林の中に入る。多くなった雪を踏んでしばらく登ると山頂部の岩場に到着。ここは顕著なジェードル状をなし、20mほど一直線に鎖がぶら下がっている。花崗岩のような大きなブロックで構成された岩場は、甲斐駒の赤石沢奥壁ダイアモンドフランケにも似てたいへん美しい。
鎖に沿って登りきったところが乾徳山の山頂だった。少し休んで松霞新道を下降しようと黒金山方面へ少し下りかけたが、雪が深く、トレースも乏しいので往路を引き返す。
月見岩からは国師ケ原へ一旦下る。国師ケ原は高校一年生の頃とは様変わりしていた。35年前は一帯が草原だったのに、いまでは針葉樹や白樺が大きく育って草原は、ほんの一部を残して消えていた。高原ヒュッテを見に行く。曇り空の夕暮れ時の無人ヒュッテはうら寂しい。ヒュッテ前の広場には黄色いテントが一張り。中からはラジオの音が聞こえている。
大平牧場へ戻ろうと道満尾根方面への道へ入る。人っ子一人いない高原の道を妻と二人で歩いていく。晴れていれば座り込んでのんびりとお弁当を食べてお茶でも飲みたくなるような高原の低潅木帯。しかしながら、もうすぐ暮れかかる曇り空の下で、吐く息を白くしながら妻と二人っきりで歩くのも幸せなひとときだ。
一軒きりの大平牧場の民家に明かりがついて車に到着し、私たち夫婦のささやかな山登りの休日が終わった。



扇平から雪道となった



最初の鎖場



水気をたっぷりと含んだ雪
池学氏のように
スパイク底のゴム長靴のほうが良かったかも知れない



山頂直下の鎖場



お母さん、この一歩が問題ですね



乾徳山の山頂

国師ケ原の高原ヒュッテ

大平牧場へ戻ってきました