2006年 初冬

八ヶ岳

裏同心ルンゼ

大同心基部から大同心稜を下降
2006/12/23


F4をリードする敦子


関東周辺で最も早くアイスクライミングができるのは標高が高く冷え込みの厳しい八ヶ岳だろう。
その八ヶ岳の中でも人気ルートである裏同心ルンゼ。
赤岳鉱泉から近く、標高差も400mほどと手ごろな氷瀑が続く好ルートだが、傾斜がゆるく滝の規模も小さいので雪に埋まるのも早い。
今年は暖冬ゆえに12月に入ってから南岸低気圧がいくつか通過、そのために関東地方では冷たい雨が降った。これが南アルプスや八ヶ岳などの高山で雪となった模様。
したがって今回の裏同心ルンゼは雪が多かった。

12月23日(土)晴れ

千葉と栃木の極道連中が大挙して裏同心ルンゼを訪れ、ワイワイガヤガヤと楽しく登ったとの報告を配信してくれたのは先週のことだった。今シーズンの初アイスクライミングに私も行きたかったが先週はあいにく休日出勤。
そして今週は24日(日曜日)夜はクリスマス。24日の夜だけはおとなしくしていなければならない。
そこで23日(土曜日)に敦子と二人で行くことになった。
金曜日の夜22時に「こぶちざわ道の駅」へ。アウトランダーの後部シートを収納して荷室を最大にし、厚手の封筒型シュラフを敷き詰めて就寝。おかげでぐっすり眠ることができた。
「こぶちざわ道の駅」はインターチェンジを降りてすぐ、近くにコンビニもあって、美濃戸口まで16km。八ヶ岳西面へ行くための中継点として最適な場所にある。
4時半に起床し、近くのコンビニで朝食を摂り、駐車場で仕度をする。
ローソンの駐車場は照明で明るく、準備には最適な場所だ。美濃戸の真っ暗な駐車場で凍えた手でおこなうそれとは雲泥の差がある。準備万端整えて、あとは登山靴を履くだけの状態で車を発進させる。
あたりに雪はまったく見られず、美濃戸までの林道も晩秋のたたずまいである。美濃戸で気温-10度。
暗い夜道をヘッドランプの明かりを頼りに歩き出したが、すぐに夜が明けてきた。
吐く息で、敦子の髪の毛が凍り付いている。
冬に汗をかくと体が冷えるので、汗をかかないように衣服を調整し、慎重にペース配分を考えながら歩いていく。赤岳鉱泉では食堂にあがりこんでストーブの前でホットミルクを飲む。一時間以上も休んで立ち上がり外へ出た。
日なたの雪の上でのんびりと仕度をしていると
「こんにちは」と挨拶する人がいる。私に挨拶する人といえば千葉岳連か日山協関係者だろうと必死で思い出そうとしていたら
「ホームページをいつも見ているんですよ。だからすぐにわかったんです。沢にぎょうさん行ってますね。きょうはどちらへ?」
山でホームページの読者に声をかけられたのは二度目だが、とても意外な感じがしてびっくりしたけれども嬉しかった。京都の四人連れの一人で、これから私たちと同様、裏同心ルンゼへ行くという。
京都パーティーにだいぶ遅れて、ハーネスを装着しアイゼンを履いて歩き始めた。
とにかく汗をかかないようにゆっくり歩いていく。大同心ルンゼ方面へのトレースを右にわけ、樹林の中から少し下っていくと裏同心ルンゼの出合だ。硫黄岳方面へのものとほぼ同等のトレースがしっかりとついている。しばらく歩いていくと前方に大同心が真正面に見えて、ルンゼ内には遠くに氷の段がある。F1である。そのF1の上に少し規模の大きいF2も見える。F2には人が見える。京都パーティーだろう。
いいよ氷瀑部分の始まりであるが基本的に私がロープを引いてソロで登り、フォローする敦子をビレイするという形で、ゆっくり登ることにする。
F1は見た目も貧弱だが、今シーズン初めてのダブルアックスなので、慎重に登る。
F2は下部にナメが続き最後に垂直部分が数メートル立ち上げっている滝である。ナメ部分の大部分は雪に埋まっており、ところどころで氷が露出している程度。垂直部は、実際には80度ほどか。
F3はモコモコした氷が盛り上がった滝。モコモコ部分が胸につかえて傾斜はゆるいが登りにくい。滝の下で待つ敦子にはセルフビレイを取らせている。
F3を登り終わって私のところまで来た敦子にきく
「あっちゃん、セルフビレイのカラビナは?」
「え?・・・おいてきちゃった」
カラビナ回収のために敦子にはF3を二回登ってもらう。F3の上からはしばらく雪面が続く。途中で両岸がせばまっているところにナメ滝があるはずだが雪で完全に埋まっており残念ながら確認することが出来ない。さらに、汗をかかないように慎重にゆっくりと登っていくと前方にF4が見える。
F4は右手部分は雪で大半が埋まってしまっており、左手だけが登攀対象となる。敦子の登り方が安定しているのでリードを勧めるとやってみるという。敦子はあっさりと登ってしまった。
「あっちゃん、すごいね」
「うん、できると思った」
大同心の基部まで上がり、大休止。風もほとんどなく、日差しが差し込んで小春日和。赤岳や阿弥陀岳がよく見える。うとうとと居眠りをしてしまいそうだ。大同心稜の上部は少し急峻なのでタイトロープで敦子を確保しながら下る。10分ほど下った樹林地帯に入ってビレイ解除。赤岳鉱泉へ到着するとアイスキャンディーと呼ばれる人工氷壁でたくさんの人が遊んでいる。
それを見た敦子がびっくりしたような顔をして小さな声でいう
「みんな私よりヘタだよ。クライミングをしてからやったほうがいいのにね」
「ん、クライミング?フリークライミングのことかい」
「うん」
「そうだね、クライミングの基本はフリーだ」
いつものとおり帰りの林道を歩きながら敦子とさまざまなことをおしゃべりする。美濃戸周辺では冬の午後の日差しはすでに傾き、弱々しい日差しが落葉松の林を照らしている。
「今日は楽チンだったね」
「そうだね、ザックも軽かったし車の中でぐっすり眠れたからね。お正月はどうしようかな、車で行きたいでしょ」
「うん」

幸福な一日に感謝。


主要装備
ロープ:9mm×50m1本
アックス:ブラックダイアモンドバイパー(改)2本、シモンピラニア(改)2本
アイゼン:グリベルG14モノポイント、シモンマカルー
その他:アイススクリュー5本、ツェルト、ガスコンロ


美濃戸赤岳山荘駐車場 6:12
赤岳鉱泉 8:07--9:17
F1下 10:13
大同心基部 12:49--13:16
赤岳鉱泉 14:07
美濃戸赤岳山荘駐車場 15:31
※四街道帰着 19:20


裏同心ルンゼのアプローチ



F1の下で



F1



F2のナメ部分を登る敦子



今回のようなケースでは
イタリアンフリクションヒッチが扱いやすい



前方に最後の滝F4を望む
右手はほぼ埋まりかけていたので、左手を敦子がリード



赤岳・中岳・阿弥陀岳を望む

大同心稜上部は慎重にタイトロープ方式で下降