2006年 晩秋

房総の沢歩き 湊川支流相川

梨沢・七ツ釜渓谷

2006/11/18

不動滝の上から敦子を撮る
房総の丘陵地帯にある沢だとは思えないような景観



妻と遡った2006年1月22日の梨沢

房総の丘陵地帯にも沢歩きができる川がある。
もちろん、奥秩父や奥多摩、あるいは西丹沢のような立派な滝があるわけではない。もともとやわらかい砂岩や泥岩で構成された地層だから高が知れている。それに標高が低すぎる。
それでも梨沢は少し違う。
小規模ながらゴルジュとナメが続く。たった一つだけれども滝もある。支流の多くも岩盤を露出させた滝をもって合流している。
千葉に住む私にとって梨沢は宝物。
晴れの日、雪の日、雨の日。秋から春にかけて、いつまでも大切に登り続けたい。


ところで、1973年に千葉県で国体があった。房総の丘陵地帯で国体の山岳競技を行うというのである。
房総の山は、この若潮国体を抜きにして語ることはできないだろう。千葉県山岳連盟によって房総の丘陵地帯はくまなく調査が行われ「房総の山」という本にまとめられた。佐藤さん、倉持さん、佐久間さん、植草さん、盛さん、山田先生・・・みんなまだ若かった。1972年佐倉高校2年生だった私も高校総体予選という名目で駆り出されて歩いた。あの大木さんと一緒に歩いたのである。山岳連盟の思惑としては、おそらくコースのチェックやリハーサルをしたかったのだろう。
近年、山と渓谷社から「千葉県の山」というオールカラーのガイドブックが出版された。執筆者を見ると佐久間さんや植草さんの名前を見ることができる。

11月18日(土)晴れ

敦子が夕方に自動車免許教習所のレッスンがあるというので、何としても16時には帰宅しなければならない。
ということで朝、5時に四街道を出発。
5時というとまだ暗い。梨沢の公民館まで70kmしかないので6時半には到着。梨沢公民館の先で左折し数百メートル進んだ橋のたもとの空き地に車を止める。助手席で敦子は眠ってしまい、なかなか起きてこない。
寝ぼけた敦子を急き立てるようにして歩き始める。さすがに早朝だから山あいには陽が差し込んでこない。
素掘りのトンネルを通過して郷蔵の集落(といってもわずか二戸ほどだが)へ到着。いつものことだが最終民家の番犬が激しく吠える。
犬に追い立てられるようにして、梨沢の河原に降り立った。陽が差し込まないので寒い。
河原を歩く。イノシシが地面を掘り返した跡が無数にあって驚く。
面白みのない河原がしばらく続く。
そしてようやく最初のゴルジュらしき箇所にたどり着いた。ゴルジュとは言ってもヘツリがあるわけではないが、左右の岩壁が高くそびえている。
これを通過すると目と鼻の先で、またゴルジュとなる。このゴルジュの中に、梨沢の大滝とも言うべき不動滝がある。左側にステップが刻んであるので容易だがロープを出して敦子をビレイ。
再び平坦な渓相となるが、岩盤が露出し始め美しいナメが続くようになり、見ようによっては南会津の沢のようにも感じられる。ナメは途中で途切れながらも延々と続く。
不動滝から40分ほど歩いて、七ツ釜に到着。小さなゴルジュだが房総の丘陵とは思えないほどの景観だ。房総とはいえ11月下旬に近いので、釜の中を胸まで浸かって歩くのはできれば避けたい。ということで左岸(向って右側)をヘツルのだが、少しかぶっておりなかなか楽しませてくれる。ヘツリができなければ釜の中を歩く。土砂で埋まって楽に行けることもあるが、今年の状態では胸まで水に浸かる事になる。この七ツ釜はずぶぬれになっても沢通しに通過したほうが安全だ。両岸の壁の高さは相当なものなので、積雪のある場合などに不用意に高巻いて落ちると死亡事故になる。高巻くのではなく往路を引き返したほうが賢明だと思う。
七ツ釜を越えると10分ほどで右手に「保田見方面」という道標がある。時間がないときにはここからエスケープすることもできる。
私たちは更に沢に沿って遡行を続ける。
ナメがいつまでも続く。ところどころで中断するが、すぐにナメが現れる。
30分ほど歩いているとコンクリートの堰堤に行く手をふさがれる。
この堰堤の10mほど下流の右手の斜面にある明瞭な踏み跡をたどると小さなピークの大日如来を経由しておおよそ30分ほどで保田見への舗装された林道に出られる。
今日は堰堤の上流を歩くことにして、堰堤の右手を小さく巻いて再び沢に降り立つ。
沢に沿って歩いていくが水田の跡地のような平坦地が広がり始めた。
イノシシが地面のいたるところを掘り返しており、踏み跡も人間のものではなくイノシシによる獣道である。沢沿いはヤブがうるさくなったので右手の斜面を登ったが、ススキの密生するヤブに迷い込み苦労しながら水仙畑の一角に出ることができた。水仙畑もイノシシが掘り返しており球根が露出している箇所がたくさんある。
水仙畑とヤブの境界線を頑張って登りやっと林道にたどり着くことができた。道端には春の花であるタンポポが咲いて、一方では秋の花であるリンドウや野菊が咲いている。
いつものとおり保田見から釜ノ台へ林道を歩く。すべてがのんびりした別天地である。私も敦子もここが大好きだ。
長い林道を一時間半歩いて12時前に出発地点に戻ることができた。


梨沢公民館先の駐車地点(梨沢新橋) 7:05
郷蔵先の梨沢入渓地点の河原 7:21
第一のゴルジュ 7:45
不動滝 7:50--7:55
七ツ釜 8:36--8:55
保田見道標 9:08
堰堤 9:40
林道 10:35
梨沢公民館先の駐車地点(梨沢新橋) 11:56


朝日を浴びて歩き始める


郷蔵から梨沢の河原に降り立つ


不動滝のあるゴルジュの入り口


これは2005年2月26日のもの
不動滝を登る敦子、水量が多い


不動滝を越えるとナメが続く


やっと谷間に朝日が射しこみはじめた


今年の七ツ釜は深く胸までの水深。
濡れるのを嫌ってハング気味の右壁をヘツル
ボルダーチックな数手が面白い


この写真は2005年2月26日のもの
釜が埋まっていたので歩いて難なく通過できた


保田見は「ぼてみ」と読む
時間がなければこの道標に沿ってエスケープすることも可能


いきなりシャットダウンされたような感覚になるコンクリート堰堤

水仙畑の上にある林道を歩く


釜ノ台集落近くに咲いていたリンドウ