2006年 初秋

奥多摩

川苔谷本流

2006/09/09

聖滝

奥多摩にこのような迫力ある谷があろうとは・・・。少々驚いたというのが偽らざるところである。
日帰りの軽いところで遊び下山後に酒を呑もうということで、細田さんが選んできた川苔谷。
通常、川苔谷といえば川苔谷逆川が有名で各種遡行ガイドブックにも紹介されている。ここで言う川苔谷とは川乗橋から竜王橋までの舗装された林道に沿って流れている川苔谷本流の深いゴルジュを指すが、市販の遡行ガイドブックには掲載されていない。
林道沿いのゴルジュということでちょうど一之瀬川本流のようなロケーションだが内容はまったく異なる。一之瀬川本流はゴルジュ内の急流の泳ぎとサラシ場の処理がテーマになるが、川苔谷本流のそれは聖滝から竜王橋までに連続する迫力ある滝の通過である。
細田さんは10年ほど前に一度遡行したことがあり、さほど悪くないということで気楽な気持ちで入渓したが
「ご馳走様でした。お腹いっぱいでお替りはいりません」
いや、ホント。

9月9日(土) 曇り時々晴れ

帰りがけに、奥多摩駅近くの飲み屋で一杯やろうということで、JRで5:44四街道を出発、奥多摩到着は8:48。タクシーで川乗橋へ。
川乗橋で遡行の準備を整えるが、橋のたもとに恐ろしい看板が立っている。この先のがけの下で平成15年に女性の首、手、足、頭髪などが発見されたと記述されている。普通なら「目撃情報をお寄せください」などの記述があるはずだが、そのような看板の趣旨は記述されていない。この看板の意図は不明だが、観光客を怖がらせるための効果は抜群である。
とても気楽な気分でやってきた私は、この看板を見て帰りたくなった。この看板、早く撤去して欲しい。
細田さんは、平気らしく橋からすぐにでもがけ下へ降りようとする。
「細田さん、ここから降りるのはやめようヨー」
ということで
200mほど上流部から谷へ降りる。
しばらくはかわいらしい淵が時々あらわれ釜を泳いだりして、遊ぶ。途中で水の噴出する放水管があるが、何の施設か?
途中で少し休憩しつつ一時間半ほど遡っていくと左手に山仕事用の仮設小屋がある。張りっぱなしのテントなどもあり、洗濯物が干されていたから、使われているのだろう。
少し先の河原で30分ほど昼食タイムをとって、遡行を再開してすぐに谷は様相を一変させた。聖滝である。
右手にスリングが下がっているので取り付く。リングボルトが2本あり、それぞれにスリングが結び付けられている。2本目のボルトまで登ったが、3本目はチップを残して抜けている。あっさりあきらめ、巻くことにする。
左手の斜面を登り、林道直下の石垣に設置されたヌルヌルのフィックスロープを頼りに一旦舗装された林道に這い上がった。這い上がった場所には遭難レリーフがある。1986年の秋に上智大学探検部の学生が聖滝の鍾乳洞から地底湖へ入り、4年生一人が戻ってこなかったとのこと。聖滝のどこかに鍾乳洞への入り口があるらしいが、遭難者の両親の心中察するに余りあり、思わず祈る。
顔をあげ、私はなんだか帰りたくなってきた。
きっと細田さんも
「もうお昼を過ぎましたから氷川に戻って、一杯やりましょう」
と言ってくれるのではないかと期待したが、遭難碑の少し先からまたもや谷へ下っていく。
どうやら行く気らしい。仕方がないのでついていく。
谷底へ下っていくと聖滝が上流方面から見下ろすような形でよく見える。石灰岩が侵食され異様な造形である。
谷底に降り立ち、少し行くと真ん中に巨大なチョックストーンを持つ二条の滝に突き当たった。これもかなり迫力がある。右の水流沿いに登れそうにも見えるが、水をまともに受けることになる。しばらく見物していたがあきらめて左手の巻き道を辿る。ところがこの巻き道が悪かった。途中まで登ったが、容易でないので細田さんがロープをつけてリード。非常に悪い。ランナーも残置ハーケン一本のみで、落ちるとタダではすまない。フォローした私ですら冷や汗の出るような40mだった。細田さんが10年ほど前に来た時には、ノーザイルですたすたと登ったと言う。右のブッシュに移ってトラバースし木を支点にして10mほど懸垂下降して滝の上へと降り立つ。このチョックストーン二条滝は、巻き道自体が非常に悪く核心部であろう。
そしてすぐにまたもや大きな滝。ねじれながら二段になって多量の水を吐き出している。これもすごい迫力だ。お互いの声もかき消されるような轟音が響き渡る。滝の手前の右の凹角を10m登ってテラスに至り、そこからさらに5mほど右の壁を登って滝の上にでた。
もう頭上には遡行終了点である竜王橋が見える。前方には8m二条滝。これは左手を水流沿いに登る。
滝の上に小規模なミニゴルジュがあり、水流沿いに通過して3m滝を登り橋の真下に出る。
滝の上から少し下流へ戻るようにして林道へ這い上がった。やっと終わった。
林道を下る途中に右手の小沢にパイプでひかれた水場があったので、ヘルメットを洗面器代わりにして行水をし、乾いた衣類に着替えてさっぱりした。川乗橋のバス停で待っていると、偶然にも臨時バスがやってきて奥多摩駅に戻ることができた。
氷川では路地裏の飲み屋街にある「そば処 おく」という蕎麦屋で一杯やって帰路に着いた。帰りの電車の中では来週予定している奥只見恋ノ岐川の話で尽きなかった。


※聖滝を除く、各滝の名称は説明の都合上、私が便宜的に名づけたものである。
※テレビのニュースで本年「8月に聖滝の地底湖で白骨化したダイバーの遺体が発見され、1986年に行方不明となった上智大学生とみられる」と報じられた。2011年11月10日追記


参加者:細田浩、賀来素明

川乗橋 09:30
放水管 10:30
造林小屋 11:00
昼食 11:15
聖滝 11:54
聖滝上 12:34
チョックストーン二条滝 12:53
チョックストーン二条滝上 14:13
ねじれ二段滝 14:22
ねじれ二段滝上 15:20
8m二条滝 15:25
竜王橋直下の最後の3m滝 15:35
林道 15:46

下流部はお遊び気分で泳いだりした


岩盤がなかなか美しい


山仕事のための仮設小屋か?


聖滝をのぞき込む細田さん


聖滝にて
細田さん撮影


聖滝を上流から


チョックストーン二条滝


チョックストーン二条滝の右の水流


チョックストーン二条滝を巻く


チョックストーン二条滝の上へ10m懸垂下降


ねじれ二段滝


8m二条滝


竜王橋直下のミニゴルジュを飛ぶ前の細田さん


飛行中の細田さん


竜王橋

氷川のそば処「おく」
今年4月に開店したそうで小奇麗で蕎麦も美味い
店員の娘さんがとてもかわいらしい

2004年6月に細田さんに教えてもらった奥多摩駅の路地裏飲み屋街。
奥多摩駅に隣接して飲み屋街?
最初は信じられませんでした。
ところが50mほどの狭い路地の両側にびっしりと屋台の延長線上にあるような飲み屋が軒を連ねているのです。
このような路地裏で下山後に慰労会をするというのは至福の喜び