2005年夏

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丹沢 金目川 春岳沢

2005/7/17

今年になってから、勤務先での責務が重くなり山のことをじっくり考えるゆとりが、あるような、ないような・・・。
そうなると根が不器用な私は24時間仕事が気になって休日でも仕事をしてしまう。
そんな私を見ていた女房が
「山へ行こう」という。
「えっ?」
はっと我にかえったような・・・。すべてに熱中症の私、山と同じようなパターンで仕事にのめり込みつつあるらしい。バランスを失いかけていた私だったがまさに正気になった。
女房の幸子と山に行ける。なんという喜び。さっそく、とっておきのところを物色する。
ありました。昨年行ったあの春岳沢。全国名水百選の美しい沢。水源をゴールに設定すれば苦しいところが一つもない最高の半日が約束されよう。

7月17日 曇り

朝が来た。
朝4時に目が覚めたが、家族はみな眠りこけている。今すぐにでも女房を起こして出発したいのだが、女房は家事全般をしなければならないので、すぐには出発できない。部活や塾のある子供たちの朝食を作り、昼食の準備をして、洗濯をして干す。
女房とザックを背負い、四街道駅へと向かう道すがらも楽しい。遠足へ行くときの小学生のような気分だ。
四街道発7時6分の快速電車に乗って、小田急線秦野駅経由で菩提のバス停に降り立ったのは10時20分だった。
あいにく曇り空で、今にも雨が降ってきそうな空模様だが、のんびり歩き始める。
とても楽しい。
しばらくアスファルトの小道を歩いて、山道へと入る。
11時30分「髭僧の滝」をパスして金目ダムの先の山道から沢へと降り立ちザックをおろす。ちょうどもみじ谷との出合である。秦野駅のコンビニで買ったカップラーメンを作って食べる。
ものすごい湿度と高温である。熱気が沢伝いに吹きおろしている。局地的なフェーン現象が起こってるのかもしれない。
このような高温多湿環境でヒルが活性化しているらしく靴に一匹ついている。靴に一匹ついているということは靴の中には五匹くらいはいるということなので靴を脱いで見ると、四匹のヒルが靴下にたかっている。まだ血を吸いはじめる前だったので払い落とした。
ここもみじ谷の出合はとても素敵なところで、晩秋のころにここでビバークしたらどんなに素敵だろうかと女房に話しかけた。
小一時間も休んで腰を上げる。
ここから春岳沢は小気味よいほどに小さな滝を連続させる。そしてそれらの小滝はすべてが小さく、しかも登りやすい。登りにくいと感じる滝があったとしても簡単に巻くことができる。
「どれ、ちょっと登ってみるかい?」と女房に水を向ける。
一歩足を踏み出して、難しいと感じるならば巻けばよい。せいぜい3mの滝なのだから。巻こうと思えば巻くこともできる滝をあえて登ろうとする。まさにゲーム感覚である。
すると彼女は水流の真ん中をブリッジングでスルスルと登ってしまった。今までとは様子が違う。今年の一月の裏同心ルンゼで蝉になってしまった彼女とはまったく別人のような登りっぷりである。
「どうしちゃったの?」と思わずたずねると
「渓流タビが滑らないことがわかった。それからオナカが邪魔にならなくなった」とのたまわった。そうなんである。彼女はここのところダイエットしていて裏同心ルンゼの頃に比べると体重が8kgほどスリムになっているのである。
このような調子で次々と滝を越えていく。
それにしても暑い。ものすごい湿気だ。湿った風が沢伝いに吹き降ろしているのだが、その温度が半端ではない。熱風といってもよいほどの風だ。その湿った熱風が沢の冷たい水流に触れて川面に霧が発生している。ちょうど冷蔵庫のドアを開けたときにガスが流れ落ちるのと同じ現象である。34年間山に登っていてこんな現象を経験するのは初めてだ。
小さな登りやすい滝が息つく暇もないほどに連続し、小気味良く登っているとすぐに水源にたどり着いた。
「ここが水源だよ」と女房に告げたのだが、ピンとこないらしい。すぐ上の穴から大量の水が吹き出ているのが、ここからは見えないからだ。女房は穴のところまで登って水源を確認して驚いている。
腰を下ろして、水源の水でドリップコーヒーを入れる。
ふと女房の足を見るとヒルが一匹吸い付いていて、丸々と膨れ上がっている。払い落とす。痛くも痒くもないのでまったく平気だという。ブヨやアブに比べたらどうということもないという。ヒルは確かに見た目は気持ち悪いが、しばらく少量の出血があるだけで実害はほとんどない。
水源の地点で登山道が横断している。左岸(向かって右側)へとつづく道を歩き始める。
筋肉疲労というものをほとんど感じないので女房もすこぶるご機嫌である。
杉林の水平道をのんびり歩いていく。30分も歩くと阿夫利神社の下社に到着。
大山のケーブルカーというものに乗ったことがないので、乗ることにする。一人片道450円。混んでいたので一本見送ることにして駅舎のベンチでビールを飲む。涼しい風が心地よい。
女房も上機嫌。また来よう。

利用ガイドブック=
・山と渓谷社1969年4月1日発行「東京雲稜会編 丹沢の山と谷」
・白水社1981年1月14日発行「日本登山大系4 東京近郊の山」