2004年秋

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南会津 会津駒ケ岳 檜枝岐川 下ノ沢

2004/10/16--10/17

深いブナの森をさまよい、紅葉をめでながら、キノコを採取し、焚き火をしながら星空の下で酒を酌み交わす。
というのが今回のコンセプトということで細田さんがチョイスしてきたのが南会津は会津駒ケ岳に突き上げる檜枝岐川の下ノ沢。細田さんも会津駒ケ岳へは冬に登ったことはあるが、雪のない時期に登ったことはないという。
一方、私が中学三年生の時、教室の後ろの棚に山渓カラーガイド「日本の山々」があった。担任の土井先生が自費でおいてくれたものだった。写真を見て山の名前を当てるという遊びを考え出して掲載されている全ての山の名前を覚えた。そうして覚えた山の中でひときわ美しく感じたのが会津駒ケ岳だった。

10月16日 曇り

前夜JR武蔵野線東川口駅で23時待ち合わせ。天気予報では秋の移動性高気圧がやってきて週末の晴天を告げている。秋晴れの中で黄葉に囲まれ最高の山登りになること間違いなしだと細田さんと二人で無邪気にはしゃぐ。
東北自動車道を突っ走り西那須野塩原ICから一般道を塩原・山王トンネル・会津高原・中山トンネル・伊南村をへて沼田街道に合流し2時20分に檜枝岐村に到着。川べりの駐車場にテントを張り寝酒を少々たしなんで眠る。
目が覚めるとなんと7時過ぎ。普通なら慌てるところだが8時まで暖かい寝袋の中でまどろむ。
朝食を済ませ、竜門の滝方面へ向かう林道の終点に駐車して9時8分遡行開始。
昨夜は満点の星空であったが、夜が明けてみると肌寒い冬空のような曇天が広がっている。林道から登山道となり少し歩くと丸木橋で沢を渡る。9時16分この沢が下ノ沢だろうということで、入渓。
この寒空ではヒザを超えて水の中に入るのは、避けたいので飛び石伝いに遡行していく。9時29分小さな釜にいく行く手を阻まれた。ここを通過するには腹まで水に浸かる必要がありそうだ。
こんな小さな釜なのに巻くのか?というような気もするが濡れるのがいやなので巻く。踏み跡があるのでそれに従っていくとどんどん上へ追い上げられて行く。
こずえ越しに立派な滝が間近に見える。おそらく竜門の滝であろう。ここのところ雨が続いているので草付の斜面はたっぷりと水を含んでぬかるみ、非常に滑りやすい。落ちると竜門の滝の下までたたきつけられることになるので真剣モードで慎重に登っていく。
9時50分竜門の滝までも一緒に高巻いて沢底へ戻ることができた。
しばらく歩きにくいゴーロ帯を登って行く。10時17分、なかなか次の滝があらわれずカッタルイなぁと思いながら上を見上げると紅葉の間から白い稜線が見えた。
「細田さん、雪だよ」
「雪かぁ、少し日が射してくれりゃ融けるんだけど、こりゃ稜線まで行くのは無理かも知れねぇな」
10月中旬だからいつ雪が降ってもおかしくない季節だけれど、ついこの間まで残暑が厳しかっただけに思いがけない気もする。
晴れていれば青空に初冠雪と紅葉が映えて見事な景観であろうがどんよりとした曇り空の下では、紅葉も少しばかりくすんで見える。
10時58分、竜門の滝以降初めての滝があらわれた。右側から難なく越える事ができた。
11時9分、続く滝は濡れるのを嫌って、左手を登路に選んだが、チョックストンにおさえられてハングしており少し難しい。空身になってハング気味の凹角をバックアンドフットで登り、ザックを吊り上げる。
再び単調な河原歩きとなる。岩盤が露出しておらずゴーロ帯なのでやや歩きにくい。
細田さんがブナハリタケとムキタケを発見、採取。今夜のキノコ鍋の具である。
11時54分二股着。パンを食ったり水を飲んだりしながら15分ほど大休止する。
ここ二股はガイドブックでは幕営適地という記述がある。確かに開けた地形ではあるが岩がごろごろしていて整地に苦労しそうだ。
細田さんは河原を歩かないで、わざと藪の中を歩く。何してんだろうと最初は思ったが、どうやらキノコを探しながら歩いているらしい。
12時45分、再び滝があらわれた。樋のような傾斜のゆるい滝で左を登っていく。これを越えると連続して次の滝。12時58分これは服が濡れそうでいやだったが、右側から取り付いて上部でガバホールドを利用して水流をまたぐようにして左へ移って上へ抜ける。
13時4分、更に小滝が連続する。この小滝はとてもやさしそうに見えるが取り付くために釜の中を腹まで浸かって渡渉しなければならない。濡れるのはまっぴらなので高巻くことで意見が一致。左手の斜面を高巻く。やさしい滝なので高巻くパーティーはいないらしく、踏み跡らしきものはまったくない。しかも冬の豪雪で押さえつけられた潅木と笹が密生しており1mほど体を引き上げるのにも気の遠くなるような奮闘が要求される。下降は潅木にスリングを残置しての懸垂下降を行い13時37分沢底へ戻ることができた。
沢底を少し行くと13時42分、10mの滝が行く手をふさいでいる。一見して登攀は無理であることがわかる。左手を巻く。
この滝を越えて少し行くと左岸に焚き火跡と整地された幕営跡がある。時計を見るとまだ14時。幕営するにはまだ少し早い時間なのでもう少し先へ進むことにする。
14時6分、小さな滝が二つ連続する。左側を登り次に右側を登る。
14時34分、やや大きな滝に出る。登る為には滝の流水を頭からかぶらなければならないようだ。この寒空に頭から水をかぶるなど論外なので巻くことにする。少し戻って右側の笹薮に入る。このブッシュも登りづらかった。数メートルしか離れていない細田さんが見えないくらいの濃密な笹と潅木。うんざりするような数十分。もう勘弁して欲しいと言う気持ちでブッシュを下っていくと断崖。
15時3分、仕方なく15mの懸垂下降で沢底へ戻る。
ここから4・5mの小滝が10本近く連続する。このあたりは下ノ沢でも最も楽しい部分であろう。右に左に登路を求めながら次々に登っていく。
これらの滝を濡れずに登ることができたのは良かったのだけれども、幕営できそうな場所がまったく見当たらない。おまけに黒部で痛めた左ヒザがシクシクと痛み始めた。飛び石を軽快に跳ぶことができず、小さな段差にも難渋し始める。あたりは笹に覆われ始め雪が斜面を覆い始めた。雪や氷に足をとられて転倒しないように慎重に登っていく。
焚き木となるような流木も見当たらず水流もだんだん細くなってきた。このままだと稜線に出てしまいそうだ。
17時5分、無理をすればなんとかテントを張れそうな場所があったので、そこで荷物を降ろす。雪の中に立っている枯れたウドを踏んで整地をする。雪を踏んでいるので渓流タビの中の足が凍えて痛い。曇り空で薄暗い中を雪の上にマジックマウンテンのアルパインライトを張る。テントを張り終えて中に入る。
細田さんが水汲みやら夕食の準備などをしてくれる。ありがたや。
一方私はランタンを灯し細田さんの作業を見ながら不謹慎にも日本酒を飲む。
「細田さん、すまんな」
「ヒザが痛かろう、酒でも呑んでな」
夕飯はきちんと飯を炊く。ビリーカンに米と水を入れてから細田さんもテントの中に入ってきた。冷えた足を暖めて細田さんが持ち上げてきたビールで乾杯。
米が水に馴染むまでキノコ汁の下ごしらえをしながらさらに酒を呑む。本当は外で焚き火をしながらやりたかったのだが、ここはすでに稜線も近く木も生えていない。従って焚き木になるような流木も見当たらない。
さてキノコ汁だがベースは豚汁である。これにブナハリタケとムキタケを入れようというのだ。注目すべきはそれ以外の具で、にんじんやジャガイモ、そして玉ねぎなどフリーズドライではなく本物の生野菜である。豚肉はベーコンで代用。
バーナーに点火。ゴーという音ともに暖気がテントの中を満たす。飯を炊き上げてからキノコ汁を火にかける。
酒に関してはこれでもか!というほど持ち上げてきているので呑み放題である。ビールを呑んで焼酎を呑み、さらに日本酒、ウイスキーなどもほんの少したしなむ。これでワインがあったらよかったなぁ。
さぁキノコ汁が出来上がった。真っ白な飯をアルミの食器に盛り、キノコ汁をつぐ。湯気がもうもうと立ち込め、汗が出そうなほどだ。
「うひゃ、うめぇなぁ」
「ほんと、うめぇ。」
漬物、七味唐辛子、葉唐辛子の佃煮、錦松梅なども用意してあり食が進む。最後はきちんと日本茶をいただいてごちそうさま。
横になってランタンの灯をみながら酒を呑んでいたら眠くなってきた。さすがに夜行で入山したから寝不足でつらい。ランタンの灯を消して早々に就寝となった。

10月17日 快晴

5時頃、目が覚めた。この幕営地はすでに稜線直下だから、今日は3時間も歩けば檜枝岐まで下山ができる。慌てることはない。寝袋のぬくもりの中でまどろみながら時間を確認して再び眠る。
次に目が覚めたときには明るかった。寝覚めが非常に良い。すっきりとした爽快感がある。寝袋から上半身を起こすと細田さんも起きてきた。
「陽が射しこんできたな、晴れか」
外に出てみる。
「わぁ、快晴だよ」
7時12分、寝袋を片付けて朝食の準備をする。レトルトの牛丼とご飯を湯煎しながらシャウエッセンというソーセージをボイルし、たくさん作ったキノコ汁の残りを暖めなおす。
朝食もうまかった。きれいにたいらげた。食後は日本茶やレギュラーコーヒーを飲みながらのんびりとくつろぐ。
昨日、履いていた渓流タビはコチコチに凍り付いていて履くのが容易ではない。私はあきらめて下山用のジョギングシューズを履く。細田さんは根性を出して履いている。
テントを撤収して歩き始めたのは9時5分。沢はところどころ凍っていてすべる。朝の陽射しの中、ヒザをかばいながらゆっくりと登っていく。
しばらくはヤブの中を登っていたが、そのうち草原になった。雪をかぶった草付の斜面は良くすべる。9時39分、苦労して登って行くと上に登山者が見える。先行した細田さんが木道の上に腰掛け私を待っている。
駒の小屋へ向かう。駒の小屋はすでに冬期休業に入っていた。
池のほとりのベンチにはたくさんの登山者が休憩している。雪があるのにこんなにたくさんの登山者がいるとはちょっと驚きだ。
「ひょっとすると会津駒ケ岳は日本百名山かな?」
「どうだろう?そうかもしれないな」
などと細田さんと話す。
私たちも空いているベンチの一角にザックを下ろし休憩する。
中学生のときに見た会津駒ケ岳の写真とそっくりな風景が広がっている。とても嬉しい気分になって、何枚も写真を撮る。
9時55分、しばらく休んで会津駒ケ岳の山頂を往復するために腰を上げる。きちんと整備された木道の上には硬くなった雪がのっておりよくすべる。
登るにつれて周囲の展望はさらに広がって会津から尾瀬、日光、新潟の山々まで見渡すことができる。特に燧ケ岳がとても立派に見える。
10時10分、会津駒ケ岳の頂上に到着。
10時30分に駒の池へ戻りさぁ出発というところで駒ケ岳の山頂にウエストバッグを忘れてきたことに気がついた。もう一度往復。
11時3分、下山を始める。しばらくは草原の中の木道をヒザの痛みに少々ビッコを引きながらたどる。
途中に小さな池塘がいくつかあり、それをながめながら
「こういう景色って俺好きだなぁ」
と細田さんがボソリという。
「俺もそうだよ」
と私がこたえる。
木道が終わって標高を下げていくとやがてブナの黄葉地帯に突入した。真っ青な空に黄葉が鮮やかだ。この黄葉地帯は標高1,500mあたりまで続いた。
13時7分、立派な木製の階段を下ってアスファルト道路に降り立つことができた。
秋のひんやりした風がブナの葉を揺らしながら吹いている。とてもすがすがしく気持ちが良い。
13時20分、竜門の滝近くの林道に止めてあったスバルに帰着。軽く着替えて温泉へ向かう。駒の湯という小奇麗な温泉。湯の温度もちょうど良く、露天風呂に浸かって体の疲れをほぐし「まる家」という蕎麦屋で裁ちそばを食して14時45分家路についた。

参加者:細田浩、賀来素明