2004年夏

納涼 水無川本谷を下る

2004/7/10

「瓜はめばこどもおもほゆ、栗はめばましてしのばゆ・・・」という万葉集の山上憶良の有名な歌が頭に浮かんだ。
ガラにもなく文芸的な書き出しに失笑する仲間も多いことだろうが、大倉バス停近くの野菜無人店舗でマクワウリを100円で売っていたのである。さらに今朝、山へ行くためにいつもの通り4時30分にベッドから抜け出た時に私の脇で熱帯夜にパジャマを腹までたくし上げ、健やかに眠っていた三人の子供達を思い出したに過ぎない。
貯金箱のような料金受けに100円を入れマクワウリをザックのポケットにしまい込んだ。
暑い日が続く。昨日は東京で35℃あったようで夜になっても気温が下がらない。
ここのところ毎週のように沢歩きに行っている。夏というと沢歩きの爽快さが連想される。確かに沢の中で水しぶきを浴びながら登っていくのは涼味満点で爽快である。しかしながら一般的には沢はその源頭で水がなくなり、そこから笹ヤブをかきわけながら汗まみれになる。汗がまみれベトベトの体のままでバスや電車に乗る不快感は夏の沢歩きの最大のネックかも知れない。
それでは沢を下ってはどうか?これなら涼しいままで家路につくことができる。
1979年4月に砂田とザンザ洞を登って同角沢を下降したことがある。だがこれは下山方法の一つの選択肢として同角沢を下降したに過ぎない。この度は発想が違う。端から沢を下る為に山に登ろうと言うのである。

7月10日 晴後雷雨

樹林に覆われた書策新道は前後に人けもなくヒグラシの鳴き声だけが林の中に響いている。あいにくの曇り空だが湿度も高く蒸し暑い日で、このような企画にはまずまずの日和だ。林道脇の草むらには山百合が咲いて良い香りがしていた。暑ければ暑いほど滝壷に使って水浴びをするときの楽しみが大きくなる。
書策新道が水無川本谷を横切る地点から本谷の下降を始める。
まずはF5である。鉄杭に支点をとってロープを投げる。垂れたロープは滝のしぶきを浴びるという格好のラインである。シャワーのように水を浴びながら懸垂下降していく。おーチメタイ。滝壷に着地したが水深はせいぜい腰程度。風呂にでも入るようにゆるゆると体を沈めていく。おー冷える、でも我慢してアゴまで水につかてしばらくじっとしている。ハーさすがに体が冷え切った。
滝壷を出てF4の滝を下降してまたもや滝壷で風呂のようにして浸かっていると、下から登山者の気配。こんな姿を見られたら変態扱いされかねない。何食わぬ顔で立ち上がり滝の下を見ると確かに人がこちらを見上げている。下っていくと「この下にまだ7人ほどが登っていますのでよろしく」とのこと。団体登山らしい。下をのぞきこむとちょうど一人が登っている最中だ。このF3は右岸にクサリがあるのだが左岸を直登しているようだ。取りつきのツルツルのスラブを登ろうとしているところだが、いまどきめずらしいワラジを履いている。
懸垂下降の支点は右岸のクサリの鉄杭にとるので直登ラインとはクロスしない。下降してみると4-5人の若者が楽しそうに歓声をあげている。
滝壷に降り立ち懸垂下降用のロープを回収していると「そうなんだぁ、こんなふうにやるんだぁ」などと言っている。懸垂下降のロープ回収を初めて見たとは高校生にちがいない。
「高校生?」
「はい」
「ずいぶん楽しそうだね、どこから来たの?」
「川崎です」
なるほど滝の上でビレイしている中年男性が高校山岳部顧問の先生であろう。なんだか華やいだような雰囲気で羨ましい。
しばらく彼等と戯れるようにして写真などを撮る。その場を離れがたくもあったが一人で下降を始める。
歩き始めるとすぐに体が火照るように暑くなってくる。ところどころで水風呂を浴びながら下るので時間がかかる。F1を下りきっても時々水を浴びるために水の中に入る。
戸沢の林道に出てしまった。あーあ、もう水はない。チョッピリガッカリして歩いていると小学生の兄弟が父親と一緒に遊んでいた。お姉ちゃんの方が小学校3年生位で弟の方が小学校一年生といったところだろうか。二人共水着でサンダルを履き走り回っている。
戸沢のキャンプ場から沢づたいに水無川を下降するという手もあるのだが大規模な堰堤が幾つもあって大変そうだ。しかたなく林道を歩き始める。またまた汗がふきだしてくる。曇った空からはときおり雨粒が落ちてくるが気温は高い。
滝沢園で水無川の水流に降り立ち少し上流へと遡る。大きな堰堤の手前に小さな堰堤が二段あってそれが小さな滝になっているのである。小さな堰堤の右岸の砂地にザックをおろし滝を頭から浴びる。
「あー気持ちいい、最高だぁ」と心の中で叫ぶ。次に速乾性のシャツを脱いで裸になりまたもや滝に打たれる。滝から出てバスタオルで体を拭き上げる。ビニール袋にバスタオルと着替えを持ってきているのである。
パンツまで取り替えビーチサンダル。さっぱりしていると下流から子供達がやってきた。夏なのである。
暑い夏の日に子供達と市営プールに行ったことが何度もある。プールからの帰りがけに感じる爽やかさに似ている。程よい筋肉疲労にも関わらず体は水で冷却され爽やか。
滝沢園から大倉バス停までは徒歩5分。バス停の売店で缶ビールを買う。一気に飲む。
バスはすぐに来た。登山客もまばらで座席にどっかりと座る。
真夏の東京近郊の日帰り登山の楽しみの一つの選択肢が増えたと実感した。最高だった。


大倉からバスに乗るとにわか雨。とても早い時間に帰宅できたので御茶ノ水で途中下車して神保町の古本屋街へ行く。
悠久堂から外へ出てみると豪雨で古本屋街を走り回る。気象庁的には上空への寒気の流入ということであろうが、私にとっては子供の頃の九州の夏休みの午後の風物詩である夕立に感じられる。
総武快速は東京で折り返し運転、横須賀方面では架線への落雷があり不通という。そうとう積乱雲が発達したようだ。


四街道発5:43
新宿発7:01
渋沢発8:20
大倉着8:32、発8:40
戸沢出合着10:06
書策新道・水無川交差点10:55
F3下11:29
F1下12:04
戸沢出合12:31
滝沢園着13:35、発13:54
大倉バス停着14:03、発14:08
渋沢着14:23











利用ガイドブック=なし