2004年春

奥多摩 入川谷

2004/4/29

大きな移動性高気圧がゆっくりと日本列島を横断するとのことで天気予報では明日4月29日の快晴を約束している。ここ2週間ほど風邪をこじらせて体調が良くないけれども、ザックに荷物をつめこんで就寝した。

4月29日 快晴

四街道5時43分の快速で出発。出発はしたのだけれどもどうも体がだるくてふらふらして、御茶ノ水で中央線に乗り換える時に列車とホームの隙間に片足が落ちてしまった。相当体調が悪いようだ。青梅線の電車の中はほとんどがハイキング客で満員状態。体調が悪いせいだろうか途中で乗り物酔いになってしまい、自分でも顔色が真っ青なのがわかるほどに脂汗をかいてへたり込むようにして古里駅で下車。
しばらく駅の軒下でザックに腰をおろして休む。駅前のコンビニで朝食用の弁当を買ったが半分ものどを通らない。朝食から食欲旺盛な私には通常では考えられないような状態だ。
太陽に照り付けられながら青梅街道をゆっくりゆっくり歩いていく。しばらく歩いて東京都水産試験場方面への道へ入る。右に採石場を眺めながら歩くのだがあまりにも辛いので道端に横になってしばらく休む。幸いなことに人も車も全く通らない。このようにして、以降しばしば横になって休みながら登っていく。
舗装路から途中で細い砂利道になり林道終点の明るい広場に到着した。この広場は右端を小川が流れており、一面に草原が広がってとても気持ちの良いところである。ここでキャンプをしたらさぞかし気持ちの良いことだろう。
この広場から沢は薄暗いゴルジュになって遡行が始まる。このゴルジュは「トバの倉骨」とガイドブックに書いてある。「倉骨」とはめずらしい名前だ。なんだかゴルジュの中に鹿の骨でも落ちていそうで薄気味悪い。ゴルジュ入り口の右側のヘツリの一歩が悪かった。この一歩以外は問題ない。ゴルジュを抜けると堰堤がいくつかあって、それらの堰堤を越えると沢は伏流となって水が消える。
炎天下の河原を歩いていると血の気がひくような感じでへなへなと岩にもたれかかり嘔吐してしまう。木陰まで移動して横になる。10分歩いて15分横になるというようなことを繰り返しながら先へとすすむ。
気を失いそうになるほど歩いてやっと沢に水が流れ始めた。すぐに右側に布滝をともなって布滝沢が合流してきた。布滝の滝壷まで行って滝壷の河原でまたしても横になる。木漏れ日を浴びながらこんな所で横になっている自分を別の登山者が遠くから見つけたら遭難者だと思うだろうなと考えた。横尾の本谷橋の登山道の脇で座りこんで急逝した小川信之氏のことなどを思い出す。
布滝は垂直の滝で水が空中を落下してそのまま滝壷にドドッと突き刺さる。
入川谷の本流へ戻って遡行を続ける。「オキの倉骨」と名付けられた日本庭園のように美しく快適なゴルジュが続く。外道滝(すぐ上に堰堤あり)を右手で巻き、次の銚子滝も左手を巻く。沢自体は小さな流れだがちょっとしたよどみには必ずと言っていいほど魚影が走る。例のごとく横になってぼんやりと水面を見ていると岩魚が虫を捕食しようと水面を叩くようにして波紋を広げる。伏流帯の上にも岩魚を放流しているらしい。
ほとんど水のない涸れ沢となっているクマタカ沢が右手から合流し、そこから本流を5分もすすむと速滝が正面にあった。・・・大きい。二段になって30mを越える高さで立っている。
ガイドブックに従って一段目を左側(右岸)から高巻いて二段目の直下に這い上がった。二段目の上部は予想以上に高く恐ろしいほどの迫力でしばし茫然と立ちすくむ。周囲の壁もハングしており滝の音が反響するからなのか、恐くなってしまった。
このような滝をたった一人で見上げていると熊野の那智の滝が御神体として崇められ信仰の対象となったことが納得できるような気がする。
ガイドブックによれば二段目は左手の岩場を使って高巻き上部のスラブを登ると言う。こんなフラフラ状態でノーザイルでスラブ?とんでもない。更に左手の沢へトラバース気味に下降しガレを登る。右手に長いスリングが残置されており速滝の落口へのルートを示しているが、とても登る気になれない。立派な岩小舎を右に見ながらガレを登る。つきあたり正面の水の流れる苔でヌルヌルした3mの岩場を登る。潅木伝いにヨタヨタしばらく登って杉の植林帯から入川谷の本流へ下降する。へとへとになって本流へ降り立つことが出来た。相当大きく高巻いたようだ。
小気味良い小滝が連続し顕著な二股に到着。この二股はガイドブックには記載されていない。右は二段の滝、左は階段状の滝からワサビ田跡を経て上部へ続いている。右の二段の滝を越えて先へすすむ。するとまたもや顕著な二股。右手は緑の苔に美しく覆われた二段滝。左は上部で杉の倒木が折り重なるようにして沢をふさいでいる。ここは左を選択。倒木が沢をまたいでおりチト苦しいが何とか登っていく。なんだか陽が傾いてきたなぁ・・・
と、まもなく丸太橋。遡行終了点である。時計を見ると15:00、何とか明るい内に下山できそうだ。
沢の水で沢靴を洗ってフェルトソールをはがしてビブラムソールに張りかえる。朝からろくなものを食べていないが、遡行終了点で水を汲み湯を沸かしてドリップコーヒーをいれる。誰にあうこともない静かな谷歩き。初夏ともいえるような日和の中でのんびり登った入川谷。
いやぁシンドイかったなぁ。でもまた来たい。シャガの花が咲く登山道をふらふらしながら下って行った。





利用ガイドブック=白山書房2000年5月10日発行「東京周辺の沢」